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野村隆昭:微分積分学講義(共立出版)
- 講義準備をした上での注意点。
- 著者自身によるページ
- page 2, line 9-10. 空集合は任意の集合の部分集合となることが「約束」されているが、これは、証明できる命題である。なお、数学の本における「約束」とはどんなことかの定義は書かれていない。
- page 8. この本では、単射であれば(全射でなくても)逆写像を考えていることに注意。
- page 13, 例題2.6. 証明の補足。「 の場合に帰着する」ということをまず宣言する。すなわち、b_n := a_n - \alpha, t_n = \displaystyle\frac{b_1+\cdots+b_n}{n} と定義する.
ここで4つの主張を番号をつけて
(1) \displaystyle \lim_{n\to\infty} a_n=\alpha, (2) \displaystyle\lim_{n\to\infty} b_n = 0,
(3) \displaystyle\lim_{n\to\infty} t_n =0, (4) \displaystyle \lim_{n\to\infty} s_n = \alpha と定める。このとき、t_n = s_n-\alpha なので、(3)と(4) は同値、(1)と(2) は定義より同値なので、(2)\Rightarrow(3) が示せれば、目的である (1)\Rightarrow(4) が示せることになる。ここから教科書の「解」を\alpha=0 として読めばよい。
- page 14, 問題2.7. 同じ技術を使う。b_n = a_n- \alpha, T_n = \displaystyle \frac{nb_1+(n-1)b_2+\cdots+2b_{n-1}+b_n}{n^2} と置くと、S_n = T_n +\displaystyle\frac{n+(n-1)+\cdots+2+1}{n^2}\alpha となるので、\alpha=0 の場合に示せばよい。
ここで、\displaystyle\left\vert S_n \right\vert \le \frac{n\left\vert a_1 \right\vert +(n-1) \left\vert a_2 \right\vert+\cdots+2 \left\vert a_{n-1} \right\vert + \left\vert a_n \right\vert}{n^2}
\le \frac{n\left\vert a_1 \right\vert +n \left\vert a_2 \right\vert+\cdots+n \left\vert a_{n-1} \right\vert +n \left\vert a_n \right\vert}{n^2}=\frac{\left\vert a_1 \right\vert + \left\vert a_2 \right\vert+\cdots+ \left\vert a_{n-1} \right\vert + \left\vert a_n \right\vert}{n} となる。
\displaystyle \lim_{n\to\infty} a_n=0 ならば、\displaystyle \lim_{n\to\infty} \left\vert a_n \right\vert =0 であり、例題2.6 より、\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{\left\vert a_1 \right\vert + \left\vert a_2 \right\vert+\cdots+ \left\vert a_{n-1} \right\vert + \left\vert a_n \right\vert}{n}=0 なので、「はさみうちの原理」により、\displaystyle \lim_{n\to\infty} S_n =0 である。
- page 17, 問題2.19. 直前の注意「命題2.14 を繰り返し使って」には反するが、証明の途中で使われる式 \displaystyle \lim_{n\to\infty} 3^{1/n} =3^0 の成立根拠を、命題2.14 の証明のレベルで与えることは、この問題では期待されていない。この事実の証明については例えば、後に出てくる問題2.33の必要条件(易しい方)も参照。
- page 21, 問題2.33. やさしい方(必要条件)を今後しばしば使うので、それだけを抜き出しておきたいようにも思う。(十分条件の方の証明では、\forall, \exists の入った命題の否定命題を正しく書けることが要求されるため、難易度があがる。)
- page 25, 定理3.4 の証明の後半の段落。背理法が使われているが、次のようにも議論できる。
まず、「\forall \alpha \in A, \exists c \in A s.t. \alpha < c」を示す。証明: \alpha は S の上界ではないので、\exists s_1 \in S s.t. \alpha < s_1. このとき、c := \frac12(\alpha+s_1) を考えると、\alpha < c < s_1 である。c<s_1 より c は S の上界ではないので、c \in A である。証明終わり。この「...」より、Aに最大数がない。よって Dedekind の公理から、Bに最小数がある。すなわち、Sの上界に最小のものがある。\qed
- page 28, line 3 から。「まるいち」の式より 0 < \alpha - a_{n+1} < \frac12 (\alpha - a_n) となる。
従って、0< \alpha-a_n < \frac1{2^{n-1}} (\alpha - a_1) となる。はなさみうちの原理(命題2.16(2)) より、数列 \{\alpha-a_n\} は0に収束する。すなわち、\{ a_n \} は \alpha に収束する。証明終わり。
註:この証明だと「定理3.13 を使っていない」ので、p27 の命題3.14 の3行上の「定理3.13 の応用として」という説明文に改変が必要。註:この証明だと(1)と(2)の証明の類似性が見て取れる。実際、(2) の a_n を b_n と書くと、b_n = 1/(\alpha-a_n), a_n = \alpha - (1/b_n) という変換で、証明まで込めて互いに移り合える。(だから、定理3.13を使っていないことに気がついた。)
- page 35, 定理 4.8 の証明。S の定義で x,y \in I が必要。ところで、2変数の関数とその連続性が必要となるような議論がされているが、証明の7行を省略して、いきなり、
「I の4つの元 x_1 > y_1, x_2>y_2 を固定する。 0 \leqq t \leqq 1 に対して、
G(t) = f((1-t)x_1+t x_2) - f((1-t) y_1+t y_2) と定義する。」と始めて、証明できる。議論の流れは教科書と同じ。以下、「連続関数の合成並びに差も連続関数なのでG:[0,1] \rightarrow \mathbb{R} は連続関数である。また、 ((1-t)x_1+t x_2)-((1-t) y_1+t y_2)=(1-t)(x_1-y_1)+t(x_2-y_2)>0 なので、G(t)\neq0 である。したがって、Roll の定理の対偶によって、G(0)=f(x_1)-f(y_1) と G(1)=f(x_2)-f(y_2) は同符号である。正であればf は狭義単調増加、負であれば狭義単調減少である。」
- p101, line -2. 少し前の line -7 のパラメータ表示 x=\displaystyle \frac12\left( s - \frac 1s \right) で s= e^t と置くと x=\sinh t となる、という説明を加えたい。
- p112, 例5.96. 3行目から5行目の文。何をしてはいけないことなのかが読み取りづらいと思われるため、括弧を補って、『この例で、「被積分関数は奇関数ゆえ、、、、を得る」というような議論をしてはいけない。』としたい。
- p154, 例題6.79. 答えの解釈。1/n^3の係数が複雑な形をしているが、正体は、x_n = \displaystyle \left(n+\frac12\right) \pi - \frac1\pi \left(n+\frac12\right)^{-1} - \frac2{3\pi^3} \left(n+\frac12\right)^{-3} + o((n+\frac12)^{-3}) となっているものを n 冪で再展開したため、異なった項からの寄与が足されていることによる。
- p186, 例題7.24(1) の解。2行目で J(x) = \displaystyle 4x^2 \int_0^{\frac12} \sqrt{1-t^2}dt と特定した後で一度、I= \displaystyle \int_0^1 4x^2 dx \int_0^{\frac12} \sqrt{1-t^2}dt と書いておきたい。これはp186注意7.23(2) の形をしているので、x の積分とt の積分は相互に関係なく、それぞれ1変数の積分の問題である。教科書には J(x) の計算が書いてあるが、そこから 4x^2 を取り除いたものが、t に関する1変数の定積分の計算である。
- p238, 問題7.25(2) の解答。本の解答では x=2\sqrt{y} \sin \theta と置いているが、x=2\sqrt{y} t, t=\sin\theta という2段階に置換して計算して行くことにする。J(y) = 4y \int_0^{\sqrt{2-y}/2} \sqrt{1-t^2} dtとなる。したがって、I= \int \int_{D'} 8 y \sqrt{1-t^2} dt dyとなる。
ここで、積分領域D'は、D'=\{(t,y) \mid y\ge 0, 0 \le t \le \sqrt{2-y}/2\}
=\{(t,y) \mid t\ge 0, 0 \le y \le 2-4t^2\}のように書ける。教科書はここで tについての積分を先に実行することとし、t=\sin\theta と置換しているのだが、ここでは、y についての積分を先に実行することにしよう。
y についての不定積分は簡単に求まるので、
I = \int_0^{1/\sqrt{2}} \left(\int_0^{2-4t^2} 8y dy \right) \sqrt{1-t^2}
dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}} [4y^2]_{y=0}^{2-4t^2} \sqrt{1-t^2} dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}} 4(2-4t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}}16(1-2t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt
となる。
これで1変数の2次無理関数の積分まではこぎ着けた。
あとは、教科書にあるように、t=\sin \theta と置換積分すると、
I=\int_0^{\pi/4} 16(1-2t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt
=\int_0^{\pi/4}16 \cos^2(2\theta) \cos^2\theta d\theta
=\int_0^{\pi/4} 8 \cos^2(2\theta) (1+\cos2\theta) d\theta
=\int_0^{\pi/2} 4 \cos^2 \varphi (1+\cos \varphi) d\varphi
となり、とにかく、計算できる積分であることが分かった。
ここからはいろいろやり方はあるが、例えば、
p116 問題5.109 の記号を使えば、
I=4(I_2 + I_3)
と表示される。
I_2 = \pi/4,
I_3 = 2/3
なので、答えが \pi+8/3 になるのである。
- p 242, 問題7.48. 極座標に限定すると教科書の解答になると思うが、最後の\varphi に関する積分のところが巧妙な感じなので、別解を考えてみる。まず、積分の前に領域の形について考察する。(x,y,z) \in D が x<0 を満たしているとすると、0 \le y^2\le 2xz かつ z\ge0 なので、z=0 でなければならない。このとき、再び y^2 \le 2xz=0 より、y=0 でもある。したがって、D \cap \{ x<0 \} \subset \{ y=z=0 \} という薄い集合になるので、積分領域から外してもよい。つまり、D' = D \cap \{ x \ge 0 \} として、この上で積分すると仮定してよい。
領域の境界に出てくる2次式 2xz を対角化するために、
x=(u-v)/\sqrt{2},
z=(u+v)/\sqrt{2} と変数変換(置換積分)する。
そうすると、
dxdydz=dudvdy であり、被積分関数は
(u+v)/\sqrt{2}
となる。積分領域は
D''= \{(u,v,y) \mid u-v \ge 0, u+v \ge 0, u^2+v^2+y^2 \le 1, y^2\le u^2-v^2 \}
となる。最初の2つの不等式から、u \ge \left|v\right| \ge 0 となり、u\ge 0 が成り立つ。
逆に、u\ge 0 と最後の不等式 y^2\le u^2-v^2 が成り立っていれば、u \ge \left|v\right| となる。従って、D''= \{(u,v,y) \mid u\ge 0, u^2+v^2+y^2 \le 1, v^2+y^2\le u^2 \}
= \{(u,v,y) \mid u\ge 0, v^2+y^2 \le \min(u^2, 1-u^2) \} である。球と円錐の交わりで表される立体である。特に回転体であることに気がつくと以下の計算が楽になる。 領域の考察を終えて、積分に移る。
被積分関数 \frac{u+v}{\sqrt{2}} dudvdy のうち、
v dv の方は奇関数の積分であり、領域 D'' が v\mapsto -v で対称なので積分値は零である。
したがって、u の方の積分だけが残って、
I = \frac{1}{\sqrt{2}} \int_{D''} \frac{u}{\sqrt{2}} du dv dyとなる。u を固定したときの (v,y) に関する積分は円の面積 \pi g(u) となる。ここで、g(u) = \min(u^2, 1-u^2) である。従って、
I = \int_0^1 \frac{u}{\sqrt{2}} \pi g(u) du となる。これで1変数の多項式の積分になった。あとはどのようにしても計算できる。たとえば u=\sqrt{t} と置くと、I= \int_0^1 \frac{1}{2\sqrt{2}} \pi g(\sqrt{t}) dt
= \int_0^1 \frac{\pi}{2\sqrt{2}} \min(t, 1-t) dt
= \int_0^{1/2} \frac{\pi}{2\sqrt{2}} 2 t dt
= \frac{\pi}{2\sqrt{2}} \times (1/2)^2 = \frac{\pi}{8\sqrt{2}}.
この解法は積分に関する難しい性質をほとんど何も使っていなくて、座標の45度の回転で積分が変わらないことと円の面積の公式を使い、そして1変数の3次多項式の積分の計算しかしていない。