雪江明彦「代数学1」日本評論社
- 講義をした上で気がついた点。
- なお、著者自身の正誤表のページあり。
そこに反映されているものは # と書きます。
- p21 (2.1.3) の最後の式$a^{-n}=(a^n)^{-1}$ と次の行の行末の式$(a^n)^{-1}= a^{-n}$は、同一であるので、示すべきこととして挙げるのはおかしい。おそらく示したいことは $(a^n)^{-1}=(a^{-1})^n$ であろう。
- # 例2.1.5. $A^\times = A \setminus \{0\}$ と定義しているわけではない。page 26 の中程の定義と、例2.2.4 に注意。例えば、$\mathbb{Z}\setminus \{0\}$ は $\mathbb{Z}^\times$ ではないのだが、ここで挙げられている3つの例からは、そのように誤解する可能性がある。
- # 例2.2.4. $M_n(\mathbb{R})^\times = GL_n(\mathbb{R})$ は「$n\geqq 2$ のときに」非可換。($GL_1(\mathbb{R})$ は可換。)
- # 命題2.3.2 の証明の前半。$y=x^{-1} \in H$ は $x^{-1}=y \in H$ と書きたい。
- 命題2.3.2 の証明の後半。「条件(2) より、群演算が $H \times H \rightarrow H$ という写像を定める」こと、に言及しておきたい。
- p35, 2行目。本文のママで正しいが、何が省略されているかがより明示的になるように詳しく書くと、$(\overbrace{1_{G_1},\ldots,1_{G_{j-1}}}^{j-1}, g_j,\overbrace{1_{G_{j+1}},\ldots,1_{G_t}}^{t-j})$.
- # 命題2.4.18. $d$ の登場するところ「条件 $d>0$」は(位数と言った時点で)自動的に成り立っているので、書く必要はない。(改めて書かれてしまうと、何か含意があるのではないかと考えてしまう。)
- 命題2.4.18. 証明の1行目の$H$ の定義。
$n$ はこの命題の主張の中で固定されているので、$H$ を定義するときの動く変数としては別の文字を使うべき。たとえば、$H = \{ m \in \mathbb{Z} \mid x^m =1 \}$ とする。
- 命題2.4.18. (1) $\Rightarrow$ (2) の別証明。$H = \{ m \in \mathbb{Z} \mid x^m =1 \}$ とすると、$H$ は $\mathbb{Z}$ の部分群である。命題 2.4.17 より、整数 $f \geqq 0$ があり、$H=f\mathbb{Z}$ となる。$d \in H$ なので、「$d$ は $f$ の倍数である」。$d>0$ なので $f\neq 0$ すなわち $f>0$ である。位数の定義($d$ の最小性)より、「$d \leqq f$ である」。以上の2つの「」をあわせて、$f=d$ である。さて、仮定(1) より $n \in H$ なので、$n$ は $f$ の倍数である。これは(2) を意味する。証明終わり。
コメント:ここで与えた証明は本質的にこの本の証明と同じだが、「$n=0$ の場合のみなので」の部分で $d$ についての仮定を使っていることを明示してみた。
- 例2.5.10の交代群。Ker($\sigma$) は Ker(sgn).
- 命題2.5.12の証明。原文で問題ないが、代案。$H=\{ x \in G_1 \mid \phi_1(x) = \phi_2(x) \}$ とする。$H$ は $G$ の部分群であり、$S$ を含む。従って、命題2.3.13(2)より, $\langle S \rangle =G$ を含む。証明終わり。
- 命題2.5.13の(1)$\Rightarrow$(2)の証明。証明の1行目の等号 $1_{G_2} = \phi(1_{G_1})$ のところでも、命題2.5.3(1) の$1_{G_1} \in \mbox{Ker}(\phi)$ は使われているので、そのあとのタイミングで引用されると違和感あり。代案として、原文の順番を変更して、『命題2.5.3(1) より$1_{G_1} \in \mbox{Ker}(\phi)$ である。逆に $g \in \mbox{Ker}(\phi)$ ならば、$\phi(g) = 1_{G_2} = \phi(1_{G_1})$ なので、$\phi$ が単射であれば、$g=1_{G_1}$ である。』とすれば、あまり字数は変わらない。
- # 例2.10.6. 2行目. $\rightarrow$ は $\mapsto$.
- p69から70. 問題2.3.5 と 2.3.6 は対比しているので、途中で改ページ(特に奇数から偶数ページへ)すると、面白さが半減する。p74に余白が数行あるので、適当にアレンジして、同じページになるようにしてほしい。
- p71. 問題2.5.2. 第2文の内容は、問題文中ではなく、巻末の「演習問題の略解」のページで述べられる内容と思われる。p143の問題2.5.1 のヒント、と併置すると効果的。
- # p71. 問題 2.5.3(2) 条件を少し緩めて、$\phi$ は単射でよい。
- p71, 問題2.5.6 と p130, 問題4.1.7 は同一。(1)(2)(3)とも。ヒントもほとんど同じ。
- p73, 演習問題2.8.1(4). どこに書くべきかはともかく、例4.2.5(p99)で同一の問題を(別のアプローチで)扱っていることには触れておきたい。
- p73, 演習問題2.9.4 ならびに 2.9.5。2.9節(直積)ではなく、2.8節(正規部分群)の内容なので、2.8.@という番号づけがなされるべきもの。
- # p133. 解答 4.2.6. $\cdots$ の両側に2項演算子を配置して、
$\times \cdots \times$ のように書くとよい。2カ所。
- p144, 問題2.5.7 の答えの1行目。写像 $\bar{k} \mapsto \phi_{\bar{k}}$ は、群としての同型 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times \cong \mbox{Aut}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ を誘導している、と言い切ってしまいたい。その上でさらに、群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の構造をヒント(c) の意味で「決定」する作業に入っている。(c.f., 系2.4.14.)
- p144, 問題2.5.7(5). 結果の解釈:\S2.5 までの学習の範囲を超えるが、問題2.9.1(p73)で、群の同型 $\mathbb{Z}/15\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$ を学習する。また、問題2.9.2(p73)により、群としての同型
$\mbox{Aut}(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}) \cong \mbox{Aut}(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}) \times \mbox{Aut}(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})$ が導かれる。そして、問題2.5.7(1) $\mbox{Aut}(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}) \cong (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^\times \cong \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ や類似の議論によって $\mbox{Aut}(\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}) \cong (\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})^\times \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。
- # p145. 解答 2.9.5. すべての部分群が正規部分群。たとえば、$\langle i \rangle$ は指数2。
「代数学2」
- p16, 命題 1.3.14 の証明の3行目。$k \rightarrow A$ という写像を $c_{i_1,\cdots, i_n}$に適用する必要あり。
- # p25, 定義 1.4.2 の直後。極大イデアルの定義は、後に p33 で登場する。
- # p58, 命題 1.11.12 の証明。帰納法はおそらく $n$ に関する帰納法。おそらく $m \ge n$ を仮定している。(そう仮定しなくても帰納法は進行できるが、その場合、証明の4行目の「元である」のところで、「元であり、特に $m\ge 1$ である」と書いておきたい。)また、帰納法の初期ステップ $n=1$ (あるいは、$n=0$)のときの記述が implicit である。
- # p63, l2. 「以下、この節の終わりまで、$A$ を一意分解環とする」とあるが、例1.11.41 では$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ が一意分解環でないことを証明しているので、つごうが悪い。一番いいのは、p66, line 7 から新しい節にしてしまうことであるが、これは目次や演習問題の番号なども変更する必要があり、改訂版では対応しきれないであろう。実際は、「p66, line 6 までは、$A$ を一意分解環とする」とするのが現実的な対応。
- # p63, 補題1.11.31の冒頭。$f(x) \neq 0$ としておいた方がよい。
- # p77, 問題1.3.1(2). $+\cdots+$ のように前後に2項演算子を配置したい。
- # p79, 問題1.6.2. $\mathfrak{m}_2$ は極大イデアルではないので、$\mathfrak{m}$ という記号に違和感あり。
- # p81, 問題1.9.1. $\rightarrow$ は $\mapsto$. 3カ所。
- # p147, 例2.13.12 のweb にあるコメント『命題2.10.7 の無限直和の場合を使う(演習問題2.10.6).
ほとんど命題2.10.7と同じようにできるのだが、これを使わないと$R[x,y]\otimes_RC \cong C[x,y]$ が正確にはいえない』と書かれているが、そうだろうか?テンソル積の普遍性の誘導するR線形写像
$R[x,y]\otimes_RC \ni f(x,y) \otimes c \mapsto c f(x,y) \in C[x,y]$ が全単射であることを言いたいだろうが、
命題2.10.7 で$A=R$, $M=R[x,y]$, $N_1\oplus N_2=C$ とすると
$R[x,y] \otimes_RC \cong R[x,y] \otimes_RR \oplus R[x,y] \otimes_RR\sqrt{-1}
= C[x,y]$ となることがわかる。
- # p264. 補題4.17.3 の証明。ここでは $\exp$ という超越関数が使われているが、それを避ける別証明がある。別証明:「任意の正の実数の平方根が存在する」ということを使えば、ここで証明したい「任意の複素数の平方根が存在する」ことが証明できる。実際、$a=u+v\sqrt{-1}$ と($u,v$は実数)としたとき、$x=\sqrt{(u+\sqrt{u^2+v^2})/2}$, $y=v/(2x)$ と定めれば、$(x+y\sqrt{-1})^2=a$ となる。証明終わり。コメント:なお、ここで用いた「任意の正の実数の平方根が存在する」は、関数$x^2$ の連続性と中間値の定理を使って証明されるので、この補題が(補題4.17.2 の上の行にあるように)「解析的な考察」であることには違いはない。