Processing math: 0%
野村隆昭:複素関数論講義(共立出版)
- p8, 例題1.16(2) の後半。不思議な問題である。 とすると、z \in D \Leftrightarrow 1-z \in D_1. さらに D_2 = \{ w \in \mathbb{C}; |w|\gt 1/\cos\alpha, |\mbox{Arg}(w)|\lt\alpha \} とすると、1/w \in D_1 \Leftrightarrow w \in D_2. そして、求める不等式 \frac{|1-z|}{1-|z|} \lt \frac{2}{\cos\alpha} は、\frac{1-|z|}{|1-z|} \gt \frac{\cos\alpha}{2},
\frac{1-|1-z_1|}{|z_1|} \gt \frac{\cos\alpha}{2}, |w| - |w-1| \gt \frac{\cos\alpha}{2} と順次変形できる。実は、「w \in D_2 の時の |w| - |w-1| の下限は右辺にある \frac{\cos\alpha}{2}よりも少し大きく、\frac{1}{\cos\alpha}-\tan\alpha=\frac{1-\sin\alpha}{\cos\alpha}=\frac{\cos\alpha}{1+\sin\alpha} である。その下限を与えるのは w=1\pm i \tan \alpha である。」これらの主張を証明すれば十分である。まず、w \in D_2 ならば、\mbox{Re}(w) \gt 1 であることに注意(D_2の絵を描くのが良い)。したがって、w':=w/\mbox{Re}(w) とおくと、w' は 0 と w を結ぶ線分上にある。したがって、|w|=|w-w'|+|w'| である。故に |w| - |w-1|=|w-w'|+|w'|-|w-1| \ge |w-w'|+|w'| - (|w-w'|+|w'-1|) = |w'|-|w'-1| となる。w'=1+iy が動く範囲は、線分 -\tan\alpha\lt y\lt \tan\alpha である。 |w'|-|w'-1|=\sqrt{1+y^2}-|y|=1/(\sqrt{1+|y|^2}+|y|) であり、これは |y| に関して単調増加なので、y=|\tan\alpha| の時の値よりも小さい。その値が \frac{\cos\alpha}{1+\sin\alpha} である。 なお、D_3=\{ w \in \mathbb{C}; \mbox{Re}(w) \gt 1, |\mbox{Arg}(w)|\lt\alpha\} とすれば、D_2 \subset D_3 であり、w \in D_3に対しても |w| - |w-1|\gt \frac{\cos\alpha}{1+\sin\alpha} が成り立つことが上の証明でわかる。D_3 を z で表示してみると、D_4 =\{ z \in \mathbb{C}; |z-1/2|\lt 1, |\mbox{Arg}(1-z)|\lt \alpha \} となる。\mathcal{D} \subset D_4 である。
- p21, 例題2.18(1)の\Rightarrow の証明。\alpha=\mbox{lim inf}_{n\to\infty} (1-a_n)^n の両辺の対数を考えると、-\log\alpha = \mbox{lim sup}_{n\to\infty} -n\log(1-a_n) となる。ここで、0\le x \le 1 に対して、-\log(1-x) \ge x なので、-\log\alpha = \mbox{lim sup}_{n\to\infty} -n\log(1-a_n) \ge \mbox{lim sup}_{n\to\infty} n a_n = \beta である。したがって、\alpha \gt 0 \Leftrightarrow -\log\alpha\lt +\infty \Rightarrow \beta \lt +\infty となる。
- p21, 例題2.18(1)の\Leftarrow の証明。「取り直して」の次から、
n\gt N ならば、(1-a_n)^n \gt (1-(\beta+\varepsilon)/n)^n で一旦止めて(つまり、\delta への変数変換をせずに)、この式で liminf を取れば、\alpha \ge e^{-(\beta+\varepsilon)} を得る。
- p27, 例題2.37. なお参考までにその値は、-1.05200513... ぐらいである。
- p97. 「あくまでも」「しか」「していない」。どんな\mathcal{D} と f の場合に、これらの同値条件が成り立つかどうかは、(まだ)述べていない、という意味だと思われる、次の文を見ると。次の文では、「単連結領域 \mathcal{D} とその上の正則関数 f」に対しては(1) が成り立つことを、定理9.20 で示す、と予告している。
- p103. 例題7.38. 目的の積分は区間 [0,R] での積分から、値の計算は [0,R+iR] 上の積分から求められる、そして、差の経路 [R,R+iR] の積分は0に収束する、というからくり。
- p111, 脚注1. これは左の p110 の問題8.7 の1行目に対する注である。探しちゃった。
- p145, 定義10.20 の1行上。零点と極の「間の」関係。
- p151, line 2. 近似値は 1.08368ぐらい。おそらくこれ以上簡単には書けないと思う。(ベッセル関数の特殊値。)
- p152, 例題10.43. 0 \lt c\lt 1 を用いて a=c^2+1, b=2c と表すと、I=2\pi (-c)^n/(1-c^2) となる。
- p155. 「解説」。並びにp156 注意10.49(2)。10.48 を 8.20 の積分路で解いてはならない、ということをここでは述べている。なお、逆に 8.20 を 10.48 の解法で解いても、こちらは間違いではない。ただし、そうすると 8.20 では半円 C^+ 一つで済んでいたものが3辺になるので、やや回りくどい感じになる。
- p248. 問題8.26.途中からの別解。3行目の「書ける。」に続いて、z=1/n を代入すると、f(1/n) = (1/n)^N g(1/n) ゆえ、g(1/n) = n^N f(1/n) = n^N/2^n となる。n\to\infty の極限をとると、g(0)=0. これは3行目の g(0) \neq 0 に矛盾する。
- 問題10.36(2) の別解(と言ってもほとんど同じ)。分母を有理化して、
f(z) = \frac{(1+\cos z)(e^z-1-z)}{\sin^4 z} =\frac1{z^4}\cdot (\frac{z}{\sin z})^4\cdot (1+\cos z)(e^z-1-z). 本の解答と同じように偶関数を使うのであれば、(\frac{z}{\sin z})^4\cdot (1+\cos z)=2(1+z^2 g_5(z)).
- p256, 問題10.44 の解答。ならびに、p153 のヒント「要領よく計算」。
「a を消去して、\alpha で書き直す」のが見通しが良いように思う。
f(z)=0 はz=\alpha を根に持ち、monic で定数項が1 なので、もう一つの根は z=\alpha^{-1} である。つまり、f(z)=(z-\alpha)(z-\alpha^{-1}) である。g(z) もおなじように考察すると、g(z)=(z+i\alpha)(z+i \alpha^{-1}) である。これに対して、「まるいち」の最後の2項をそれぞれ計算して行く。複素数を含んでいるものの、因数分解されている形なので、\alpha の有理式として計算していって、面倒にはならない。しかも、和の2つの項の共通因数が早い段階で見えるので、気の利いた工夫をするよりは、機械的に計算して行けるように思う。結果は J=\alpha^4/(1+\alpha^4) ときれいな形になる。むしろ問題は、これを a=-(\alpha+\alpha^{-1})/2 であるような a で書き直して答えの式を得るところにある。
- 問題10.60(1).
x=e^{t/4} と変数変換すると、(あ)=\displaystyle \frac{1}{16} \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{t/4}}{1+e^{t}} dt,
(い)=\displaystyle \frac{1}{16}\int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{3t/4}}{1+e^{t}} dt である。この問題を一般化して、0\lt a \lt 1 に対して、 \displaystyle \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{a t}}{1+e^{t}} dtを計算することができる。問題10.58の長方形の積分路を使うのが簡明である。なお形式的には問題10.58の答えを a で微分したものになるが、積分と微分の交換をこの本ではしない。あとで書きます。
- p156 の補題10.51 以降10.3 節の終わりまでの流れ。「10.50 の直後に10.53,10.54-10.58,10.60(1) を済ませ、次に10.51 をしてから 10.52,10.60(2)を扱う、最後に 10.59 をやる」という順序で行うのが、行ったり来たりが少ないように思う。なぜなら、10.53, 10.58, そして、上にコメントした 10.60(1) は、半回転(10.51)を使う必要がなく、しかも長方形の積分路なので、問題10.48(1) の直後に練習するのにふさわしい。次に、10.52, 10.60(2) のように半回転(10.51)を使う必要のある計算を紹介して、小さい半円の迂回の練習をするのが良さそうである。
- 問題10.60(2).
x=e^t と変数変換すると、問題文の積分は、\displaystyle \int_{-\infty}^\infty e^{\alpha t} \frac{t e^t}{e^{2t}-1} dt = \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{\alpha t}}{2 \sinh t} dt となる。例題10.52の積分路を使うと良さそう。
- 例題10.54. x=e^t と変数変換する。H(w):=F(e^w) と略記する。示すべき式は、\displaystyle (1-e^{2 \pi i \alpha}) \int_{-\infty}^\infty H(t) e^{\alpha t} dt = 2 \pi i \sum_{0\lt \mbox{Im} \beta \lt 2 \pi} \mbox{Res}_{z=\beta} (H(z) e^{\alpha z}) である。これを示すには問題10.58の積分路を使うのが良い。本の解法では \delta \gt 0 の取り扱いをする必要があるが、問題10.58の長方形の積分路ではその配慮が不要なので、作業が軽減される。また、長方形の左右の辺の長さが2\pi と有限なので、その辺上での積分値が小さくなることをFに関する仮定の条件から示すには、p161, line 5, line 7 にあるように H(z) e^{\alpha z} の値が小さくなることだけを見れば良い。(本の解法では、円弧BC の長さは長いので、簡単ではあるが計算を要する。)
- p163, 例題10.59の証明。p163, line -6 の計算が、log sin を複素関数論とつなぐ鍵となっている。すなわち、目的の(2) の式は line -2 の \displaystyle \int_0^{2\pi} \mbox{Log} \left| \sin \frac{\theta}{2} \right| d\theta = -2\pi \mbox{Log} 2 であるが、それは、\displaystyle \int_0^{2\pi} \left( \mbox{Log} 2 + \mbox{Log} \left| \sin \frac{\theta}{2} \right| \right) d\theta =0 と同値である。そこで、line -6 に留意すれば、\displaystyle \int_0^{2\pi} \mbox{Re}\mbox{Log}(1-e^{i\theta}) d\theta=0 が示すべき式となる。いつものように w=e^{i\theta} と置き換えれば、この式の左辺は \displaystyle \mbox{Re} \int_{|w|=1} \mbox{Log}(1-w) \frac{dw}{iw} となる。ただし、\theta に関する積分が \theta=0,2\pi で広義積分であることに呼応して、w=1 では積分路に注意が必要である。そのメインテナンスの議論がp163の上半分の骨子と言って良い。本では f(z) = \frac{\mbox{Log} z}{z-1} を扱っているが、むしろ、g(w) = \frac{\mbox{Log}(1-w)}{w} が自然なのではないかと思う。もちろん、f(z) = - g(1-z) 程度の差しかないので本質的に同じだが。
Last-modified: 2017-06-08 (木) 18:46:20