野村隆昭:複素関数論講義(共立出版)
- p97. 「あくまでも」「しか」「していない」。どんな$\mathcal{D}$ と $f$ の場合に、これらの同値条件が成り立つかどうかは、(まだ)述べていない、という意味だと思われる、次の文を見ると。次の文では、「単連結領域 $\mathcal{D}$ とその上の正則関数 $f$」に対しては(1) が成り立つことを、定理9.20 で示す、と予告している。
- p103. 例題7.38. 目的の積分は区間 $[0,R]$ での積分から、値の計算は $[0,R+iR]$ 上の積分から求められる、そして、差の経路 $[R,R+iR]$ の積分は$0$に収束する、というからくり。
- p111, 脚注1. これは左の p110 の問題8.7 の1行目に対する注である。探しちゃった。
- p145, 定義10.20 の1行上。零点と極の「間の」関係。
- p151, line 2. 近似値は 1.08368ぐらい。おそらくこれ以上簡単には書けないと思う。(ベッセル関数の特殊値。)
- p152, 例題10.43. $0 \lt c\lt 1$ を用いて $a=c^2+1$, $b=2c$ と表すと、$I=2\pi (-c)^n/(1-c^2)$ となる。
- p155. 「解説」。並びにp156 注意10.49(2)。10.48 を 8.20 の積分路で解いてはならない、ということをここでは述べている。なお、逆に 8.20 を 10.48 の解法で解いても、こちらは間違いではない。ただし、そうすると 8.20 では半円 $C^+$ 一つで済んでいたものが3辺になるので、やや回りくどい感じになる。
- p248. 問題8.26.途中からの別解。3行目の「書ける。」に続いて、$z=1/n$ を代入すると、$f(1/n) = (1/n)^N g(1/n)$ ゆえ、$g(1/n) = n^N f(1/n) = n^N/2^n$ となる。$n\to\infty$ の極限をとると、$g(0)=0$. これは3行目の $g(0) \neq 0$ に矛盾する。
- 問題10.36(2) の別解(と言ってもほとんど同じ)。分母を有理化して、
$f(z) = \frac{(1+\cos z)(e^z-1-z)}{\sin^4 z} =\frac1{z^4}\cdot (\frac{z}{\sin z})^4\cdot (1+\cos z)(e^z-1-z)$. 本の解答と同じように偶関数を使うのであれば、$(\frac{z}{\sin z})^4\cdot (1+\cos z)=2(1+z^2 g_5(z))$.
- p256, 問題10.44 の解答。ならびに、p153 のヒント「要領よく計算」。
「$a$ を消去して、$\alpha$ で書き直す」のが見通しが良いように思う。
$f(z)=0$ は$z=\alpha$ を根に持ち、monic で定数項が$1$ なので、もう一つの根は $z=\alpha^{-1}$ である。つまり、$f(z)=(z-\alpha)(z-\alpha^{-1})$ である。$g(z)$ もおなじように考察すると、$g(z)=(z+i\alpha)(z+i \alpha^{-1})$ である。これに対して、「まるいち」の最後の2項をそれぞれ計算して行く。複素数を含んでいるものの、因数分解されている形なので、$\alpha$ の有理式として計算していって、面倒にはならない。しかも、和の2つの項の共通因数が早い段階で見えるので、気の利いた工夫をするよりは、機械的に計算して行けるように思う。結果は $J=\alpha^4/(1+\alpha^4)$ ときれいな形になる。むしろ問題は、これを $a=-(\alpha+\alpha^{-1})/2$ であるような $a$ で書き直して答えの式を得るところにある。
- 問題10.60(1).
$x=e^{t/4}$ と変数変換すると、(あ)$=\displaystyle \frac{1}{16} \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{t/4}}{1+e^{t}} dt$,
(い)$=\displaystyle \frac{1}{16}\int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{3t/4}}{1+e^{t}} dt$ である。この問題を一般化して、$0\lt a \lt 1$ に対して、 $\displaystyle \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{a t}}{1+e^{t}} dt$を計算することができる。問題10.58の長方形の積分路を使うのが簡明である。なお形式的には問題10.58の答えを $a$ で微分したものになるが、積分と微分の交換をこの本ではしない。あとで書きます。
- p156 の補題10.51 以降10.3 節の終わりまでの流れ。「10.50 の直後に10.53,10.54-10.58,10.60(1) を済ませ、次に10.51 をしてから 10.52,10.60(2)を扱う、最後に 10.59 をやる」という順序で行うのが、行ったり来たりが少ないように思う。なぜなら、10.53, 10.58, そして、上にコメントした 10.60(1) は、半回転(10.51)を使う必要がなく、しかも長方形の積分路なので、問題10.48(1) の直後に練習するのにふさわしい。次に、10.52, 10.60(2) のように半回転(10.51)を使う必要のある計算を紹介して、小さい半円の迂回の練習をするのが良さそうである。
- 問題10.60(2).
$x=e^t$ と変数変換すると、問題文の積分は、$\displaystyle \int_{-\infty}^\infty e^{\alpha t} \frac{t e^t}{e^{2t}-1} dt = \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^{\alpha t}}{2 \sinh t} dt$ となる。例題10.52の積分路を使うと良さそう。
- 例題10.54. $x=e^t$ と変数変換する。$H(w):=F(e^w)$ と略記する。示すべき式は、$\displaystyle (1-e^{2 \pi i \alpha}) \int_{-\infty}^\infty H(t) e^{\alpha t} dt = 2 \pi i \sum_{0\lt \mbox{Im} \beta \lt 2 \pi} \mbox{Res}_{z=\beta} (H(z) e^{\alpha z})$ である。これを示すには問題10.58の積分路を使うのが良い。本の解法では $\delta \gt 0$ の取り扱いをする必要があるが、問題10.58の長方形の積分路ではその配慮が不要なので、作業が軽減される。また、長方形の左右の辺の長さが$2\pi$ と有限なので、その辺上での積分値が小さくなることを$F$に関する仮定の条件から示すには、p161, line 5, line 7 にあるように $H(z) e^{\alpha z}$ の値が小さくなることだけを見れば良い。(本の解法では、円弧BC の長さは長いので、簡単ではあるが計算を要する。)
- p163, 例題10.59の証明。p163, line -6 の計算が、log sin を複素関数論とつなぐ鍵となっている。すなわち、目的の(2) の式は line -2 の $\displaystyle \int_0^{2\pi} \mbox{Log} \left| \sin \frac{\theta}{2} \right| d\theta = -2\pi \mbox{Log} 2$ であるが、それは、$\displaystyle \int_0^{2\pi} \left( \mbox{Log} 2 + \mbox{Log} \left| \sin \frac{\theta}{2} \right| \right) d\theta =0$ と同値である。そこで、line -6 に留意すれば、$\displaystyle \int_0^{2\pi} \mbox{Re}\mbox{Log}(1-e^{i\theta}) d\theta=0$ が示すべき式となる。いつものように $w=e^{i\theta}$ と置き換えれば、この式の左辺は $\displaystyle \mbox{Re} \int_{|w|=1} \mbox{Log}(1-w) \frac{dw}{iw}$ となる。ただし、$\theta$ に関する積分が $\theta=0,2\pi$ で広義積分であることに呼応して、$w=1$ では積分路に注意が必要である。そのメインテナンスの議論がp163の上半分の骨子と言って良い。本では $f(z) = \frac{\mbox{Log} z}{z-1}$ を扱っているが、むしろ、$g(w) = \frac{\mbox{Log}(1-w)}{w}$ が自然なのではないかと思う。もちろん、$f(z) = - g(1-z)$ 程度の差しかないので本質的に同じだが。