野村隆昭:微分積分学講義(共立出版)
- 講義準備をした上での注意点。ならびに、講義を1年間終えての学生からのフィードバックを多数含みます。
- コメントの分量が多くなって来たのでいくつかのパートに分けます。
- また、著者のページに掲載済みになったものは * をつけて、後置します。
- 著者自身によるページ
別証明
- page 28, line 3 から line 7 までの証明の別証。「まるいち」の式より $0 \lt \alpha - a_{n+1} \lt \frac12 (\alpha - a_n)$ となる。
従って、$0\lt \alpha-a_n \lt \frac1{2^{n-1}} (\alpha - a_1)$ となる。はなさみうちの原理(命題2.16(2)) より、数列 $\{\alpha-a_n\}$ は$0$に収束する。すなわち、$\{ a_n \}$ は $\alpha$ に収束する。証明終わり。 註:この証明だと、証明のこの部分には定理3.13 を使っていない。つまり、命題3.14の証明には必ずしも定理3.13 は必要ではない。教科書では、命題3.14 の3行前のリード文で、「定理3.13 の応用として」命題3.14 を得るという位置づけで扱っているが、どうだろうか?むしろ、実数の完備性は別のところ、つまり『証明の冒頭の「$\alpha := \sup A$ を定義する」ところで定理3.4が必要である』という形で効いてきている。
- page 36, 定理4.9(2) の証明。$\delta$ を抽象的に選んでいるが、$\delta=\min(f(x_0+\varepsilon) -f(x_0), f(x_0)- f(x_0-\varepsilon))$ と具体的に選ぶことができる。また、同じように、$\varepsilon$ も、$0 \lt \varepsilon \lt \min(b-x_0,x_0-a) $ と選ぶ、と書くこともできる。
- page 35, 定理 4.8 の証明。2変数の関数とその連続性が必要となるような議論がされているが、それを避けることができる。実際、証明の最初の9行を省略して、いきなり、「$I$ の4つの元 $x_1 \gt y_1, x_2 \gt y_2$ を固定する。 $0 \leqq t \leqq 1$ に対して、$G(t) = f((1-t)x_1+t x_2) - f((1-t) y_1+t y_2)$ と定義する。」のように、$G$を1変数関数として定義することでも、証明ができる。議論の流れは本と同じ。以下続けると、「連続関数の合成並びに差も連続関数なので$G:[0,1] \rightarrow \mathbb{R}$ は連続関数である。また、$ ((1-t)x_1+t x_2)-((1-t) y_1+t y_2)=(1-t)(x_1-y_1)+t(x_2-y_2) \gt 0$ なので、$ ((1-t)x_1+t x_2) \neq ((1-t) y_1+t y_2)$ である。 $f$が1対1なので、 $G(t)\neq0$ である。$G(t)$ はどんな $0\le t\le 1$ に対しても$0$ にならないので、Roll の定理の対偶によって、$G(0)=f(x_1)-f(y_1)$ と $G(1)=f(x_2)-f(y_2)$ は常に同符号である。この符号が正であれば$f$ は狭義単調増加、負であれば狭義単調減少である。」
- page 152, 命題6.73 の証明の(い)。
Bolzano-Weierstrass が使われているが、ここは(あ)と類似の中間値の定理で導けると思う。
$c \in (a-\delta,a+\delta)$ を固定する。
(あ)の構成法より$y_1 \lt \varphi(c) \lt y_2$ である。
任意の $0\lt \varepsilon \le \min( y_2 - \varphi(c), \varphi(c)-y_1 )$ をとる。
$y'_1 := \varphi(c) - \varepsilon$, $y'_2 := \varphi(c) + \varepsilon$ と置くと、
$f(c,y'_1)\lt 0$, $f(c,y'_2)\gt 0$ なので (あ)と同じ議論で、
ある $\delta' \gt 0$ が存在して、
$[c-\delta', c+\delta']$ では $f(x,y'_1)\lt 0$ かつ $f(x,y'_2)\gt 0$ が成り立つ。
必要なら $\delta'$ は小さく取り替えることにして、
$[c-\delta', c+\delta'] \subset [a-\delta,a+\delta]$ としてよい。
単調増加性より $y'_1 \lt \varphi(x) \lt y'_2$ が $[c-\delta', c+\delta']$ で
成立している。
すなわち、$|x-c| \le \delta'$ ならば $| \varphi(x) - \varphi(c) | \lt \varepsilon$ である。
つまり $\varphi$ は $x=c$ で連続性の定義を満たしている。
説明の追加や文意の補足
- page 17, 問題2.19. 問題の置かれている位置から、直前の注意2.18「高校で習得した方法」をふまえた練習問題と思えるが、証明の途中で使われる式 $\displaystyle \lim_{n\to\infty} 3^{1/n} =3^0$ の成立根拠について補足しておきたい。すなわち、この式は、命題2.14 や命題 2.16 のような議論だけからは従わない。巧妙な工夫すれば、命題2.14 や命題2.16と同じレベルの証明をここで与えることは可能かもしれないが、それはあまり教育的でなく、この式の証明については例えば、後に出てくる問題2.33の必要条件(易しい方)を参照するのがよいだろう。すなわち、$\displaystyle \lim_{n \to \infty} 3^{1/n} = 3^{\lim_{n\to\infty} 1/n} = 3^0$ を証明なしで用いる解法が期待されていると解釈した方がいいであろう。 なお、巧妙な工夫の例としては、$3=(3^{1/n})^n = (3^{1/n}-1+1)^n \ge 1+n(3^{1/n}-1)$. したがって、$1 \le 3^{1/n} \le 1+\frac{2}{n}$ なので、はさみうちの原理より$\displaystyle \lim_{n\to\infty} 3^{1/n} =1$.
- page 101, line -2. 例5.65. なお、2つのパラメータ表示が密接に関係していることを付記しておきたい。すなわち、少し前の line -7 のパラメータ表示 $x=\displaystyle \frac12\left( s - \frac 1s \right)$ で $s= e^t$ と置くと $x=\sinh t$ となる、という説明を加えたい。
- page 113, 解説。「対称性を考慮して」とあるが、ここに書かれている変換がなぜ、対称性と関係があるのか、わからず。
用語など
- page 2, line 9-10. 「空集合は任意の集合の部分集合となる」ことが「約束」されているが、これは、line 6-7 の「部分集合の定義」に基づいて証明できる命題である。なお、数学の本における「約束」とは、「定義」の一種である。(そのことはこの本では明示的には書かれていない。)
- page 8. この本では、単射であれば(全射でなくても)逆写像を考えていることに注意。逆写像は全単射について考える、という流儀もあるため、注意しておく。
- page 135 の定理6.35 ではm変数からn変数への写像を考えているが、page 139 のSection 6.6 ではn変数からm変数への写像を考えていて, m, n の使い方が逆になっている。定理6.35 の結論を行列形で書いて、それをヤコビ行列と呼ぶときに注意する必要がある。特段の理由がなければ教科書で統一されている方がやりやすい。
- page 137 (2) で $\theta_{xx} + \theta_{yy} =0$ を計算で導いているが、その計算は、問題6.28 で既出である。
- page 160, 注意6.91. 「漸近線」の定義がない?索引にも「漸近線」がない。
- page 164, line 3. 「持ち得る最大の階数」。上の行を引きずっていない、ということを「一般に」という形容詞で表している。つまりは、「行と列の長さの小さい方と同じ階数を持つ行列」ということ。
- page 165 の5行目からこの節の終わりまでの部分は、条件付き極値問題とは関係なく、陰関数定理の応用である。
教科書とは異なる計算方法
- page 25, 定理3.4 の証明の後半の段落。背理法が使われているが、本の証明を少しだけ書き換えることで、背理法を避けて次のようにも記述できる。まず、「$\forall \alpha \in A, \exists c \in A$ s.t. $\alpha \lt c$」を示す。証明: $\alpha$ は $S$ の上界ではないので、$\exists s_1 \in S$ s.t. $\alpha \lt s_1$. このとき、$c := \frac12(\alpha+s_1)$ を考えると、$\alpha \lt c \lt s_1$ である。$c \lt s_1$ より $c$ は $S$ の上界ではないので、$c \in A$ である。証明終わり。この「...」は、「$A$に最大数がない」ことを意味する。(念のために証明:「$A$に最大数がある」とは「$\exists \alpha \in A, \forall c \in A$, $\alpha \ge c$」である。この否定命題がまさに「...」である。証明おわり。)従って Dedekind の公理から、$B$に最小数がある。すなわち、$S$の上界に最小のものがあることが示された。\qed
- page 160, 問題6.92(3). 解答では有界性を論じているが、それを得るためならば、次のようにも議論できる。極座標 $x=r \cos \theta, y=r \sin \theta$ を代入して、$f=r^4(\cos^4\theta+\sin^4\theta) -4 r^2 \cos \theta \sin \theta$ より、$r^2 = \displaystyle \frac{4 \cos\theta \sin \theta}{\cos^4\theta+\sin^4\theta}$ となることがわかる。分母は正である。従って、$r^2$ は$\theta$ の連続関数であり、$0 \le \theta \le 2\pi$ の範囲で最大値を持つ。特に有界である。証明終わり。 別解:上記の「従って」からは、具体的に $r^2 = \displaystyle \frac{4 \sin 2\theta}{2-\sin^2 2 \theta} = \frac{4u}{2-u^2}$ と書いて、ただし $u= \sin 2\theta$、この関数が $0 \le u \le 1$ の範囲で単調増加であって、$u=0$ のとき$0$, $u=1$ のときに $4$ であることを見て $r^2 \le 4$ を計算で確かめてしまっても簡明である。
- page 173, 例題6.130(2) の解答。ここで指定されている解法とは異なる方法で解くことで、答えの複雑な数字の背景を分析しておく。$x,y,z$ の符号を独立に変えることができるので、束縛条件は $(x^2+y^2+2z^2-4, x^2y^2z^2-1)$ としても同じである。$X=x^2,Y=y^2,Z=z^2$ とすると、束縛条件は$(X+Y+2Z-4, XYZ-1)$と書ける。ただし、$X \ge 0, Y \ge 0, Z \ge 0 $ を記憶しておく必要がある。目的関数は $f=X+Y+Z$ である。 さらに座標変換して、$s=X+Y, t=X-Y$ とする。束縛条件は、$(s+2Z-4, (s^2-t^2)Z-4)$ と書ける。不等式条件は、$s\ge |t|, Z\ge 0$ である。目的関数は $f=s+Z$ である。変数$t$ の入り方に着目すると、$u=t^2$とおくことで、束縛条件が $(s+2Z-4, (s^2-u)Z-4)$ と書ける。不等式条件は $s\ge 0, s^2 \ge u \ge 0, Z\ge 0$ である。目的関数は $f=s+Z$ のままである。 すると、束縛条件は1パラメータの曲線として書けて、$s=4-2Z, u= s^2-4/Z = (4-2Z)^2 - 4/Z =4 (Z-1) (Z^2-3 Z+1)/Z$ と解ける。不等式条件は $0 \lt Z\le 2$ かつ $u \ge 0$ である。これは、$(3-\sqrt{5})/2 \le Z \le 1$ と書き直せる。目的関数は $f= 4-Z$ である。以上より、最大最小問題が解けて、$Z=1$ で $f=3$ が最小、$Z=(3-\sqrt{5})/2$ で $f=(5+\sqrt{5})/2$ が最大となる。最大最小のいずれでも $u=0$, $t=0$ となり、$X=Y$ である。その値は、最小値を与えるときは $X=1$, 最大値を与えるときは $X=\sqrt{5}+1$ である。まとめると、
最小値のときは、$(X,Y,Z)=(1,1,1)$, $s=2$, $t=0$, $u=0$, $f=3$ である。
最大値のときは、$(X,Y,Z)=(\sqrt{5}+1, \sqrt{5}+1, (3-\sqrt{5})/2)$, $s=2(\sqrt{5}+1), t=0, u=0$, $f=(5+\sqrt{5})/2$ である。
なお、この解法では微積を使っていない。
- page 187, 例題7.24(2)の解。(1) と同様に中の積分で、$x=yt$ と変数変換すると、$\displaystyle \int_1^y \frac{dt}{t^2+1}$ となる。ここでこの積分を逆三角関数で実行してしまえば、教科書と同じ積分計算になるが、積分を実行せず、順序交換を行うと、$\displaystyle \int_1^{\sqrt{3}} \left( \int_t^{\sqrt{3}} dy \right) \frac{1}{t^2+1} dt=\int_1^{\sqrt{3}} \frac{\sqrt{3}-t}{t^2+1} dt$ となる。
これは不定積分できて, $\displaystyle=\left[ \sqrt{3} \mbox{Arctan} t - \frac12 \log(t^2+1) \right]_{1}^{\sqrt{3}}$ によって積分値がわかる。ただし、順序交換は次の節で学習するので、教科書だとこの位置にはこの解答は書きづらい。
- page 195, 例題7.43. 変数変換 $u=x+y+z$ をすると、$D' = \{ (x,y,u) \mid x \ge 0, y \ge 0, x+y \le u \le 1 \}$ となる。$x,y$ を止めて $z$ を $u$ に平行移動しただけなのでヤコビアンは$1$ である。(1変数の変数変換。) 従って、
$I= \displaystyle \int_0^1 \left( \iint_{\{ (x,y) \mid x \ge 0, y \ge 0, x+y \le u\}} \,dx\, dy\right) \frac{du}{(u+1)^2}$ となる。ここで、$x,y$ に関する積分は、直角2等辺3角形の面積なので、$\frac12 u^2$ である。従って、$I= \displaystyle \int_0^1 \frac{u^2}{2(u+1)^2} du = \int_1^2 \frac{(t-1)^2}{2t^2} dt = \left[\frac12 t - \frac1{2t} -\log t \right]_1^2 = \frac34-\log 2$ となる。 図形的には、三角錐の正三角形の面に沿って切ってから積分していることに当たる。
- page 197, 例題7.46. 計算方法ではなく、答えの数字の意味を理解するために別の方法を取ってみよう。4重積分に直すと、$\displaystyle I=\iiiint_B dx\, dy\, dz\, dw$, ここで、$B=\{ (x,y,z,w) \mid x \ge 0, y \ge 0, z\ge 0, w \ge0, x^2+y^2+z^2+w^2 \le 1 \}$ となる。つまり、$I$ は半径1の4次元の球の体積の$1/2^4$ である。例題7.49 の記号を用いれば、$I=V_4(1)/16$ である。$V_4(1) = \pi^2/2$ なので、求める積分は $\pi^2/32$ である。意味を理解するのに有効。ただし、4次元球の体積の計算では、ここと同じ計算を行っているので証明としては循環論法である。
- page 197, 問題7.47. 教科書のp242の解答では、例題7.46と同じように空間の極座標を使っているが、変数変換をしないで、多項式の不定積分だけを使って平易に積分することができる。問題文の重積分は、
$\displaystyle \iint_{E} \int_0^{\sqrt{1-x^2-y^2}} z \,dz x y\, dx\, dy$, ただし、$E=\{ (x,y) \mid x^2+y^2 \le 1, x\ge 0, y\ge 0\}$ と累次積分で書ける。$z$ に関する積分は不定積分できて、$\displaystyle\left[\frac12 z^2\right]_0^{\sqrt{1-x^2-y^2}} = \frac12(1-x^2-y^2)$ となる。従って、問題の3重積分は、$\displaystyle\int\int_E \frac12 (1-x^2-y^2) x y\, dx\, dy$ となる。同じくこれは、
$\displaystyle \int_0^1 \int_0^{\sqrt{1-x^2}} \frac12(1-x^2-y^2) xy dy dx
= \int_0^1 \left[ \frac14 x(1-x^2) y^2 - \frac18 x y^4 \right]_0^{\sqrt{1-x^2}} dx
= \int_0^1 \frac18 x(1-x^2)^2 dx
= \left[ -\frac1{48} (1-x^2)^3 \right]_0^1
= \frac1{48}$.
- page 197, 例題7.49.
教科書では1つ次元の下がった球と対応づけていて、問題5.109 の積分が必要になっているが、2つ次元の下がった球と対応づけると、積分の計算が平易になる。
$D=\{(x_{1}, x_{2}) \mid x_{1}^2+x_{2}^2 \le 1\}$ とする。
$(x_1,x_2) \in D$ に対して、
$(x_1,x_2,x_3,\ldots,x_n) \in B_n(1)$ となる条件は、
$x_1^2+x_2^2+x_3^2+\cdots+x_n^2 \le1$ なので、
$x_3^2+\cdots+x_n^2 \le1-x_1^2-x_2^2$と書き換えれば、
$(x_3,\ldots,x_n) \in B_{n-2}(\sqrt{1-x_1^2-x_2^2})$ となる。
すなわち、
$\displaystyle V_{n}(1) = \iint_{D} V_{n-2} (\sqrt{1-x_1^2-x_2^2}) \, dx_1\, dx_2$ となる。
$V_{n-2}(r) = r^{n-2} V_{n-2}(1)$ なので、
$\displaystyle V_{n}(1) = V_{n-2}(1) \iint_{D} (1-x_{n+1}^2-x_{n+2}^2)^{(n-2)/2} \, dx_{1}\, dx_{2}$
となる。積分を極座標に変換すると、
$= V_{n-2}(1) \displaystyle\int_0^1 (1-r^2)^{(n-2) /2} r\, dr \int_0^{2\pi} d\theta
= V_{n-2}(1) \pi \left[ -\frac{1}{n/2} (1-r^2)^{n/2} \right]_0^1
= V_{n-2}(1) \frac{2\pi}{n}$.
つまり、漸化式 $V_n(1) = \dfrac{2\pi}{n} V_{n-2}(1)$ が得られた。
この漸化式は簡単に解くことができて、$n$が偶数のときは、
$V_n(1) = V_2(1) \dfrac{(2\pi)^{n/2-1}}{n!!/2}=\dfrac{(2\pi)^{n/2}}{n!!} = \dfrac{\pi^{n/2}}{(n/2)!}$.
$n$ が奇数のときは、
$V_n(1) = V_1(1) \dfrac{(2\pi)^{(n-1)/2}}{n!!} = \dfrac{2 (2\pi)^{(n-1)/2}}{n!!} $.
- page 204, 例7.64. 2変数関数の不確定点との関係。
$g(x,y)=\dfrac{x-y}{2(x+y)}$ とすると、
$\dfrac{\partial^2 g}{\partial x \partial y} = \dfrac{x-y}{(x+y)^3}$
である。
目的の積分は
$\displaystyle \int_0^1 \left( \int_0^1 \frac{\partial^2 g}{\partial x \partial y} dx \right) dy
= \int_0^1 [ \frac{\partial g}{\partial y} ]_{x=0}^{x=1} dy
= \int_0^1 \left( \frac{\partial g}{\partial y}(1,y) - \frac{\partial g}{\partial y}(0,y) \right) dy
= [ g(1,y) - g(0,y) ]_{y=0}^{y=1}
= g(1,1) - g(0,1) - g(1,0) + \lim_{y\to0} g(0,y)$.
もう一方の積分は、
$\displaystyle \int_0^1 \left( \int_0^1 \frac{\partial^2 g}{\partial x \partial y} dy \right) dx
= g(1,1) - g(0,1) - g(1,0) + \lim_{x\to0} g(x,0)$.
ここで、$g(1,1)=0, g(0,1)=-\frac12, g(1,0)=\frac12$ なので、
$g(1,1) - g(0,1) - g(1,0)=0$ である。
まとめると $\displaystyle \int_0^1 \left( \int_0^1 \frac{\partial^2 g}{\partial x \partial y} dx \right) dy=\displaystyle\lim_{y\to0} g(0,y) = -\frac12$ であるが、一方、
$\displaystyle \int_0^1 \left( \int_0^1 \frac{\partial^2 g}{\partial x \partial y} dy \right) dx= \displaystyle \lim_{x\to0} g(x,0) = \frac12$ となり、値の食い違いが確認できた。
なお、原点へ近づく方向によって $g(x,y)$ の極限値が異なる現象は、
例題6.5(2) や問題6.6(2)と同じ現象である。
2変数関数の原点での不連続性と広義積分が発散することとが関係しているのは面白い。
- page 204, 問題7.65(2) の別解。原点での発散の具合を見るのに、極座標を用いることもできる。$D$ の代わりに
$E = \{ (x,y) \mid x \ge 0, y\ge 0, x^2+y^2\le 1, (x,y) \neq (0,0)\}$ での収束発散を見るのと同じである。
($D \supset E$ であり、差集合 $D \setminus E$ 上で 被積分関数は有界連続なので可積分である。)
$E$ を極座標で表すと $E'=\{ (r,\theta) \mid 0 \lt r \le 1, 0\le \theta \le \frac\pi2\}$ である。
$\displaystyle \iint_{E'} \frac{|x-y|}{(x+y)^3} dx\, dy = \iint_{E'} \frac{|\cos\theta -\sin \theta|}{(\cos\theta+\sin\theta)^3} \frac{dr}{r} d\theta$ となり、変数分離している。
ここで、$r$ に関する積分は $\displaystyle\int_0^1 \frac{dr}{r}$ となり、対数発散している。
- page 204, 問題7.65(2), 別解。
解答の$D_1$ 上の積分を考える。
$x$ を止めて、$y$ を $u=x+y$ に変数変換する。
領域は $2 \gt 2x \gt u \gt x \gt 0$ と書けるので
$2 \gt u \gt x \gt u/2 \gt 0$ となる。
被積分関数は $\frac{x-(u-x)}{u^3} = \frac{2x-u}{u^3}$ である。
したがって、
$I=\displaystyle \iint_D \frac{x-y}{(x+y)^3} dx dy
= \int_0^2 \left( \int_{u/2}^u (2x-u) dx \right) \frac{du}{u^3}$.
内側の積分は、
$\displaystyle\int_{u/2}^u (2x-u) dx
= \left[ x^2-ux \right]_{u/2}^u
= u^2/4$.
よって、$I=\displaystyle\int_0^2 \frac{du}{4u}=+\infty$.
- page 204, 問題7.65(2). 対称性を利用した、計算しない証明法。
変数 $(x,y)$ を $(2x,2y)$ に変換しても、
$f \, dx\, dy$ は変わらないが、領域が大きくなる。
被積分関数は非負なので、それが生ずるのは値が$+\infty$ の時だけである。
- page 206, 問題7.69. 対称性を利用した値の計算。
$f=-1+\dfrac{-x^2+y^2+2xy}{x^2+y^2}$.
重積分 $J=\displaystyle\int\int_{D'} \frac{-x^2+y^2+2xy}{x^2+y^2} dx\, dy $ は $(x,y)$ を 90度回転すると符号がマイナスになるので $J=0$ である。ただし、この議論では、この広義積分 $J$ が収束することは自動的にはでてこないので、別途証明しておく必要がある。
- page 206, 例7.70. 別解。
$I_1(\varepsilon)$ の積分で、
$y$ を $u=x-y$ に変換すると、
$\displaystyle \int_0^{x-\varepsilon} \frac{dy}{(x-y)^\alpha}
= \int_\varepsilon^x \frac{du}{u^\alpha}$ となる。
ここで積分順序を変更すると、
$I_1(\varepsilon) = \displaystyle \int_\varepsilon^1
\left( \int_u^1 dx \right)
\frac{du}{u^\alpha}
= \int_\varepsilon^1 \frac{1-u}{u^\alpha} du$.
従って、1変数の広義積分$\displaystyle \int_0^1 \frac{1-u}{u^\alpha} du$
が収束することと必要十分である。定理5.90 が適用できる。
あるいは、不定積分できるので、値を求めて収束発散を論じても良い。
無理にベータ積分で書けば $B(1-\alpha, 2)$ ともなる。
- page 210, 問題2.7. もし例題2.6 を使っていいとしたら、$\varepsilon$-$N$ 論法を使わない解答すら可能である。$b_n = a_n- \alpha$, $T_n = \displaystyle \frac{nb_1+(n-1)b_2+\cdots+2b_{n-1}+b_n}{n^2}$ とおくと, $a_n \to \alpha$ より $b_n\to 0$ であるので $|b_n| \to 0$ である。
ここで、$\displaystyle\left\vert T_n \right\vert \le \frac{n\left\vert b_1 \right\vert +(n-1) \left\vert b_2 \right\vert+\cdots+2 \left\vert b_{n-1} \right\vert + \left\vert b_n \right\vert}{n^2}
\le \frac{n\left\vert b_1 \right\vert +n \left\vert b_2 \right\vert+\cdots+n \left\vert b_{n-1} \right\vert +n \left\vert b_n \right\vert}{n^2}=\frac{\left\vert b_1 \right\vert + \left\vert b_2 \right\vert+\cdots+ \left\vert b_{n-1} \right\vert + \left\vert b_n \right\vert}{n}$ となる。
例題2.6 より、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{\left\vert b_1 \right\vert + \left\vert b_2 \right\vert+\cdots+ \left\vert b_{n-1} \right\vert + \left\vert b_n \right\vert}{n}=0$ なので、「はさみうちの原理」(命題2.16(2)) により、$\displaystyle \lim_{n\to\infty} T_n =0$ である。
ところで、
$S_n = T_n +\displaystyle\frac{n+(n-1)+\cdots+2+1}{n^2}\alpha$ なので、$\displaystyle \lim_{n\to\infty} \frac{n(n+1)}{2n^2}= \frac12$ より、$\displaystyle\lim_{n\to\infty} S_n = 0 + \frac12 \alpha= \frac12 \alpha$ である。
- page 212, 問題 4.16. 本の解答では、$0 \lt \dfrac{1}{x^2+x+1} \lt \dfrac{1}{x+1} \lt 1$ より $0 \lt \beta \lt \alpha \lt \dfrac\pi4$ という精密な評価を使っているが、もう少し粗雑に議論することができる。すなわち、$\dfrac{1}{x^2+x+1} \gt 0$, $\frac{1}{x+1} \gt 0$ より、$0 \lt \alpha \lt \dfrac\pi2$, $0 \lt \beta \lt \dfrac\pi2$ となるので、$0 \lt \alpha+\beta \lt \pi$ となる。ところで、$\tan(\alpha+\beta) = \dfrac1x gt 0$ を合わせて考えると、$0 \lt \alpha + \beta \lt \frac\pi2$ となる。したがって、$\mbox{Arctan}\dfrac1x=\alpha+\beta$.
- page 215, 問題4.57(2). $\displaystyle \lim_{x \to +0} (\tan x) \log \sin x = \lim_{x\to +0} \frac1{\cos x} \lim_{x\to +0} (\sin x) \log \sin x$. 後ろの極限は $u=\sin x$ とおくことで、$\displaystyle \lim_{u \to +0} u \log u =0$ が例題4.56(1) から得られる。
- page 220, 問題5.44(2) の解答。ヒントに挙げられている問題 4.37(2) には $\mbox{tanh}^{-1} x = \dfrac12(\log(1+x)-\log(1-x))$ が書かれているので、これを不定積分して $\displaystyle \int \mbox{tanh}^{-1} x dx = \frac12 ( (1+x) \log(1+x)+(1-x) \log(1-x) )+C$. これだと逆関数の積分の練習になりませんね。先入観がないということはいいことです。学生さんおそるべし。
- page 238, 問題7.25(2) の解答。本の解答では $x=2\sqrt{y} \sin \theta$ と置いているが、$x=2\sqrt{y} t$, $t=\sin\theta$ という2段階に置換して計算して行くことにする。$\displaystyle J(y) = 4y \int_0^{\sqrt{2-y}/2} \sqrt{1-t^2} dt$となる。したがって、$I= \displaystyle\iint_{D'} 8 y \sqrt{1-t^2} dt\, dy$となる。
ここで、積分領域$D'$は、$D'=\{(t,y) \mid y\ge 0, 0 \le t \le \sqrt{2-y}/2\}$
$=\{(t,y) \mid t\ge 0, 0 \le y \le 2-4t^2\}$のように書ける。教科書はここで $t$ についての積分を先に実行することとし、$t=\sin\theta$ と置換しているのだが、ここでは、$y$ についての積分を先に実行することにしよう。
$y$ についての不定積分は簡単に求まるので、
$I = \displaystyle\int_0^{1/\sqrt{2}} \left(\int_0^{2-4t^2} 8y dy \right) \sqrt{1-t^2}
dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}} [4y^2]_{y=0}^{2-4t^2} \sqrt{1-t^2} dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}} 4(2-4t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt
= \int_0^{1/\sqrt{2}}16(1-2t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt$
となる。
これで1変数の2次無理関数の積分まではこぎ着けた。
あとは、本にあるように、$t=\sin \theta$ と置換積分すると、
$I=\displaystyle\int_0^{1/\sqrt{2}} 16(1-2t^2)^2 \sqrt{1-t^2} dt
=\int_0^{\pi/4}16 \cos^2(2\theta) \cos^2\theta d\theta
=\int_0^{\pi/4} 8 \cos^2(2\theta) (1+\cos2\theta) d\theta
=\int_0^{\pi/2} 4 \cos^2 \varphi (1+\cos \varphi) d\varphi$
となり、とにかく、計算できる積分であることが分かった。
ここからはいろいろやり方はあるが、例えば、
p116 問題5.109 の記号を使えば、
$I=4(I_2 + I_3)$
と表示される。
$I_2 = \pi/4,
I_3 = 2/3$
なので、答えが $\pi+8/3$ になるのである。
- page 240, 問題7.42(2). 問題を拡張して、同じ被積分関数を $D=\{(x,y) \mid 0 \le x \le a, 0 \le y \le b\}$ で積分する問題を考える。同じ解法で計算する。$\beta=\mbox{Arctan}(b/a)$ とする。$I_1=\displaystyle \beta-\mbox{Arcsin}\left(\frac{b}{\sqrt{(1+a^2)(a^2+b^2)}}\right)$, $I_2=\displaystyle\frac{\pi}{2}-\beta - \mbox{Arcsin}\left(\frac{a}{\sqrt{(1+b^2)(a^2+b^2)}}\right)$ となる。従って、$I=\displaystyle\frac{\pi}{2}- \mbox{Arcsin}\left(\frac{b}{\sqrt{(1+a^2)(a^2+b^2)}}\right)-\mbox{Arcsin}\left(\frac{a}{\sqrt{(1+b^2)(a^2+b^2)}}\right)=\mbox{Arcsin}\left(\frac{ab}{\sqrt{(1+a^2)(1+b^2)}}\right)$. これが答え。例えば $a=\sqrt{3}, b=1$ とすると、確かに $I=\displaystyle\mbox{Arcsin}\frac{\sqrt{6}}4$ となり、もとの問題の答えと一致している。あるいは、$a=+\infty, b=+\infty$ の極限を考えると、$I=\mbox{Arcsin}(1) = \frac{\pi}{2}$ となる。
- page 241, 問題7.44(1). $I=\iint_B (2-x-y) \sqrt{x^2+y^2}\, dx\, dy$ で、$x$ を$-x$, に $y$ を $-y$に置換すると、$I=\iint_B (2+x+y) \sqrt{x^2+y^2}\, dx\, dy$ となる。2つの式を平均すると、$I= \int\int_B 2\sqrt{x^2+y^2}\, dx\, dy$となる。ここで、教科書にあるように極座標を用いても良いが、一旦、3重積分に戻ると、$I= \iint\int_{\{ (x,y,z) \mid |z|\le \sqrt{1-x^2-y^2}\}} \, dx\, dy\, dz$ となり、半径1の球の体積と一致する。それは、$\frac43 \pi$ である。
- page 242, 問題7.48. 「極座標に変換する」ように手段を限定すると本の解答になると思うが、最後の$\varphi$ に関する積分のところが巧妙な感じなので、別解を考えてみる。まず、積分を計算する前に領域の形について考察する。Step 0: $(x,y,z) \in D$ が $x \lt 0$ を満たしているとすると、$0 \le y^2\le 2xz$ かつ $z\ge0$ なので、$z=0$ でなければならない。このとき、再び条件 $y^2 \le 2xz=0$ より、$y=0$ でもある。したがって、$D \cap \{ x \lt 0 \} \subset \{ y=z=0 \}$ という薄い集合になるので、積分領域から外してもよい。つまり、$D' = D \cap \{ x \ge 0 \}$ として、この上で積分すると仮定してよい。(なお、ここまでの部分の考察が、本の解答では明示的でない。* 第2版では修正済み。)
Step 1: 次に領域の境界に出てくる2次式 $2xz$ を対角化するために、
$x=(u-v)/\sqrt{2},
z=(u+v)/\sqrt{2}$ と変数変換(置換積分)する。$(x,z)$ 平面上での45度の回転である。
そうすると、
$dxdydz=dudvdy$ であり、被積分関数は
$(u+v)/\sqrt{2}$
となる。積分領域は
$D''= \{(u,v,y) \mid u-v \ge 0, u+v \ge 0, u^2+v^2+y^2 \le 1, y^2\le u^2-v^2 \}$
となる。最初の2つの不等式から、$u \ge \left|v\right| \ge 0$ となり、$u\ge 0$ が成り立つ。
逆に、$u\ge 0$ と最後の不等式 $ y^2\le u^2-v^2$ が成り立っていれば、$u \ge \left|v\right|$ となる。従って、$D''= \{(u,v,y) \mid u\ge 0, u^2+v^2+y^2 \le 1, v^2+y^2\le u^2 \}$
$= \{(u,v,y) \mid u\ge 0, v^2+y^2 \le \min(u^2, 1-u^2) \}$ である。
従って、$ D^{\prime\prime} $ は $u$ を回転軸とする回転体であることがわかった。なお、計算に必要ではないが、この立体 $D'' $ が球と円錐の交わりで表される立体であることもわかる。 Step 2: 領域の考察を終えて、積分に移る。
被積分関数 $\frac{u+v}{\sqrt{2}} dudvdy$ のうち、
$v dv$ の方は奇関数の積分であり、領域 $D''$ が $v\mapsto -v$ で対称なので積分値は零である。
したがって、$u$ の方の積分だけが残って、
$I = \frac{1}{\sqrt{2}} \int_{D''} \frac{u}{\sqrt{2}} du dv dy$となる。$u$ を固定したときの $(v,y)$ に関する積分は円の面積 $\pi g(u)$ となる。ここで、$g(u) = \min(u^2, 1-u^2)$ である。従って、
$I = \int_0^1 \frac{u}{\sqrt{2}} \pi g(u) du$ となる。これで1変数の多項式の積分になった。 Step 3: あとはどのようにしても計算できる。たとえば $u=\sqrt{t}$ と置くと、
$I= \int_0^1 \frac{1}{2\sqrt{2}} \pi g(\sqrt{t}) dt
= \frac{\pi}{2\sqrt{2}} \int_0^1 \min(t, 1-t) dt
= \frac{\pi}{2\sqrt{2}} \times \frac14
= \frac{\pi}{8\sqrt{2}}$.
最後の積分は三角形の面積である。計算終わり。
教科書の解法だと、難しい関数の積分(例えば例5.73)が使われているが、この解法だと円の面積と直角三角形の面積の公式(あるいは3次多項式の積分)ぐらいしか使わなくても答えの数値が求まってしまうのが不思議である。
教科書の題材の分析や問題の背景
- page 28, line 3 から line 7 までの証明の別証。追記:なお、上で与えた「別証明」は、p211, 問題2.33の「十分性」の証明と同じ議論を含んでいる。それは偶然ではない。分析してみよう。実際、p211 の証明に現れる $\varepsilon$ を固定して、$B=\{ |x-a| ; |f(x) - f(a)| \ge \varepsilon \}$ と記号を定める。このとき、$\forall \delta \gt 0$, $\exists b \in B$ such that $b \lt \delta$ なのだが、それは言い換えれば $\mbox{inf} B =0$ である。そこで、 $0$ に収束する $B$ 内の数列を作るのだが、そのような数列を作るプロセスが、問題2.33 と命題3.14 で同じなのである。そして、この数列を作るプロセスと収束性の証明では、p17 の命題 2.20 の直後、「$|r| \lt 1$ ならば $r^n \to 0$」の $r=1/2$ の場合のみが必要である。 なお、この教科書では、「$|r| \lt 1$ ならば $r^n \to 0$」や、それと同値な「アルキメデスの原理 $\displaystyle \lim_{n \to \infty} (1/n) =0$」(例えば注意2.18 の4行目)は、断りなしに使うことにしている。(その判断は妥当だと考えられる。)
- page 28, 簡単な1次分数変換を使うことで、命題3.14. (2) を使って(1) を証明したり、(1) を使って(2) を証明したりすることが可能である。例えば、(2) を使って、(1) を証明してみよう。$\alpha \notin A$ とする。$B= \{ 1/(\alpha - a) \mid a \in A \}$ とする。$B$ は上に有界でないので、(2)より、$a_n \to \infty$ となる数列 $\{ a_n \}$ が存在する。$\{ \alpha - \frac1{a_n} \}$ は (1) の条件を満たす数列である。証明終わり。
実際、(2) の $a_n$ を $b_n$ と書くと、$b_n = 1/(\alpha-a_n)$, $a_n = \alpha - (1/b_n)$ という変換で、証明まで込めて互いに移り合える。(だから、(1) でも (2) と同様に定理3.13を使っていない、ということに気がついた。)
- page 154, 問題6.77 の展開の近似で現れる $\psi(x)$ について。これは、$f(x,y) = x+y-\tan(xy) =0$ で、$\tan t$ を1次近似した式 $x+y-xy=0$ を$y$ について解くと、まさに $y=\psi(x) = \dfrac{-x}{1-x}$ を得る。
- page 154, 問題 6.78. 問題文の式の左辺を加法定理でまとめると、$\sqrt{2} \sin(xy+\frac\pi4) =y$ となる。つまり、$x=\displaystyle\frac1y (\mbox{Arcsin}(y/\sqrt{2}) - \frac{\pi}{4} )$ と$(x,y)=(0,1)$ の近くで解くことができる。従って、この問題は、この陽関数$x=x(y)$ の逆関数$y=y(x)$ のTaylor 展開を求める問題とも解釈できる。注意 6.80 にあるように、例題 6.79 も逆関数のTaylor 展開を求める問題とも解釈できるため、題材がややかぶっているとも言える。ただし、解法として $x=x(y)$ のTaylor 展開を求めてから逆関数の展開を求めるのは計算が煩瑣であり良い方法ではなく、教科書の解法がよい。
- page 154, 例題6.79. 答えの解釈。$1/n^3$の係数が複雑な形をしているが、正体は、$x_n = \displaystyle \left(n+\frac12\right) \pi - \frac1\pi \left(n+\frac12\right)^{-1} - \frac2{3\pi^3} \left(n+\frac12\right)^{-3} + o((n+\frac12)^{-3})$ となっているものを $n$ 冪で再展開したため、異なった項からの寄与が足されていることによる。 ここで $(n+\frac12)\pi$の出所を説明しておこう。$x=\frac1n$ のとき、$z=\displaystyle\frac{1}{(n+\frac12)\pi}$ と置くと、 $z= \dfrac{2x}{(2+x)\pi} $ となる。これを注意 6.80 の$g(y)$ を使って書くと、$z=\dfrac{\tan y}{1+y \tan y}=\dfrac{\sin y}{\cos y + y \sin y}$ と、ややきれいな形になる。この表示から $z$ は $y$ の有理数係数の冪級数で表されることがわかり、逆関数 $y=y(z)$ も $z$ の有理数係数の冪級数で表せる。$z$ で書かれている展開を $x$ で展開し直すと答えの表示式になっている。
- page 166, 注意6.102(1) の$x$ による曲線のパラメータ表示から直ちに、この曲線が、$(x,y,z)=2( \sin^2 \theta, \sin \theta \cos \theta, \cos \theta)$ とパラメータ表示できることが従う。この表示が非特異有理曲線に見えて一瞬ぎょっとするが、$\theta=\pm \pi/2$ で $(x,y,z)=(2,0,0)$ となり、曲線が自己交差している、つまり、8の字の形になるのがミソ。この曲線は平面曲線ではないが、その特異点$(2,0,0)$は、定理6.88(2) の結論の結節点(node) の条件を満たしていると言える。なお、このパラメータ表示における微分は零にならない、つまり、速度は零にならないので、曲線は$\theta$ に関しては局所的に非特異である。このことは、点 $(2,0,0)$ が $N_{\mathbf F}$ の特異点であること(注意6.102(2))には矛盾していない。
- page 173, 問題 6.131. 上の p166, 注意6.102(1)へのコメントで与えたパラメータ表示を用いると、$f= 7+ 2(\cos(2\theta)+\sin(2\theta)) = 7+2 \sqrt{2} \sin(2\theta + \frac{\pi}{4})$ となるので、 $f$ の最大値最小値が$7 \pm 2\sqrt{2}$ であることが、すぐに分かる。この解法は、注意6.127(2) に示唆されている解答である。なお、この解法では微積を使っていない。
- page 189, 例題7.31. この式で形式的に $a=0$ とすると、$\displaystyle \int_0^1 \frac{x^b-1}{\log x} dx= \log (b+1)$ を得るが、それをこの例題の方法で直接導くのは難しいようである。(なお、もしも、直接導けるのであれば、$b$ を $a$ としたものをその式から引けば、教科書の $a,b$ の入った式が得られる。)
- page 236, line -11 から page 237, line 7 まで。問題6.129(b). 考えている点 $\mathbf{a}$ での勾配方向が座標軸と一致するように座標を回転しておくと考えやすい。つまり、$X=x, Y=\frac{1}{\sqrt{2}}(y-z), Z=\frac1{\sqrt{2}}(y+z)$ とすることで $x$ 軸に関して45度の回転をした座標で考える。新しい座標で表すと、目的関数は $f=X^3 + \frac{1}{\sqrt{2}} (Z^2+3Y^2)Z$ となる。考えている点 $\mathbf{a}$ は $(X,Y,Z)=(0,0,1)$ になる。束縛条件は $X^2+Y^2+Z^2=1$ である。したがって、考えている点の近くで $Z=\sqrt{1-X^2-Y^2}$ と陽に解くことができている。したがって、$f= X^3 +\frac{1}{\sqrt{2}} (1-X^2+2Y^2)Z = X^3 +\frac{1}{\sqrt{2}} (1-X^2+2Y^2) (1-X^2-Y^2)^{1/2} $ である。これで、条件付き極値問題ではなく、無条件の極値問題の標準的な解法が使えることになった。最後まで解答を書いておくと、$f$ の $(X,Y)=(0,0)$ におけるテーラー展開を2次の項までで打ち切ると、$\frac{1}{\sqrt{2}} (1 -X^2+2Y^2-\frac12 X^2-\frac12 Y^2) = \frac{1}{\sqrt{2}} (1-\frac32 X^2+\frac32 Y^2) $ となり、ヘッセ行列は対角化されていて不定符号であり、確かに $(X,Y)=(0,0)$ は鞍点であり、その点は極値にはならないことが証明できた。 なお、教科書と同じように、ある方向から近づくと極小となることを証明してみることにしよう。$f$ の式で $X=0$ とすると、$f=\frac{1}{\sqrt{2}} \sqrt{1-Y^2} (1+2Y^2)$ となり、これは $Y=0$ の近くで極小値となる。一方で、$Y=0$ とすると、$f=X^3+ \frac{1}{\sqrt{2}} (1-X^2)^{3/2}$ となり、これは $X=0$ の近くで極大値となる。どちらも2階微分の符号で、あるいはテーラー展開の2次の項を見ることで分かる。これが教科書の証明の流れに沿った書き換えである。
- page 240, 問題7.42(1). まったくの余談だが、$I_1$ と $I_2$ の $\pi/8$ がちょうどキャンセルするのは、
$\displaystyle\left(\dfrac{1}{1+r^2} |_{r=0}\right) \times \int_{-\pi/2}^0 d\theta$ と $\displaystyle\left(\dfrac{1}{1+r^2} |_{r=1}\right) \times \int_{-\pi/2}^{\pi/2} d\theta$ がたまたま一致している、という事情に基づく。
- page 242, 問題7.44(2). この解答で十分平易だが、別解はないだろうか?
- page 243, 問題7.62(3). このままで問題ないが、$D'$ で $r=1/t$ と変数変換すると、$dr/r^4= t^2 dt$ となり、
$D''_1=\{ (t,\theta) \mid \frac\pi4 \le \theta \lt \frac\pi2, \cos\theta \le t \le \frac{1}{\sqrt{2}} \}$,
$D''_2 =\{ (t,\theta) \mid \frac\pi2 \le \theta \le \pi, t \le \frac{1}{\sqrt{2}} \}$ となる。
この領域の形は、問題7.42(1) の解答の $D'$ の領域にとてもよく似ている。それは、複素平面での変換 $z \mapsto 1/z$ によって、直線が円に移されることによって説明できる(2年生の複素関数論)。
問題や解答の方針の改変
- page 113, 問題5.99(2) の解答 page 255. 提示されている変数変換が巧妙にすぎる感じを受ける(5.7.1 の観点を認めれば不自然ではないが)。まずは、$x^2=t$ とおくことで、$I= \displaystyle\int_1^\infty \frac{dt}{2t\sqrt{t-1}}$ と書き直す。そのあとでは、$\sqrt{t-1}= u$ とおくことに気がついて、$I=\displaystyle\int_0^\infty \frac{du}{1+u^2}$ とする。
- page 113, 例題5.100. 変数変換として、直前のリード文にあるようなもの($\tan \frac x2 = t, \tan x =t$) を使うのが自然であろう。例えば、代案として、次のような小問を使って解くことが考えられる。(1) $t=\tan(\theta/2)$ と置換することで、$I(\sqrt{ab}, \frac{a+b}2) = \displaystyle\int_0^\infty \frac{dt}{\sqrt{(at^2+b)(bt^2+a)}}$ となることを示せ。
(2) $s=\tan\theta$ と置換することで、$I(a,b) = \displaystyle\int_0^\infty \frac{ds}{\sqrt{(b^2s^2+a^2)(s^2+1)}}$ となることを示せ。(3) $t=s\sqrt{b/a}$ と置換することにより、$I(\sqrt{ab}, \frac{a+b}2)=I(a,b)$ であることを示せ。
Section 6.11と 6.12の構成に関して。
- 内容は次の3つに分けることができる:(a) 「ひとつの(あるいは1種類の)」関数の「非特異点の」周りでの考察、 (b) ひとつの(あるいは1種類の)関数の「特異点」での考察。(c) 2種類の関数(束縛関数と目的関数)に関する未定乗数法。このうち、(b) と (c) はどちらを先にやるべきか迷うところだが、(a) が(b)(c) よりも前にくることは確かであろう。陰関数定理が応用できるのは非特異点の周りでの解析である。未定乗数法も非特異点の周りの解析である。特異点の解析(定理6.88) は陰関数定理が適用できないので、陰関数定理より高級な話題である。(a)(b)(c)それぞれの内容がどの部分に相当するかを書いておく。
(a) Section 6.11 の p158 の中程の「点P$(a,b)$ が $N_f$ の非特異点であるとき、、、平行である。」まで。こおから Section 6.12, page 161 の下から4行目に飛んで、「一般に関数、、、」から、次のページの注意6.96 の終わり「、、、直ちにわかる。」まで。次に、p165, 5行目の「さて、、、」からこの節の最後まで、内容は、空間曲面、空間曲線の場合の陰関数定理の応用。
(b) 6.11 節, p158 の定理6.88の3行上からこの節の終わりまで、ならびに、
「6.12節、p163 の下から7行目から、定義6.98の後ろの解説まで」。
ただし、この「、、、」の部分は、用語の定義をしているだけなので、教科書の配列と同様、(c) の定理6.99と組み合わせてもいいと思う。
(c) 6.12 節の定理6.94 の証明までと、p162 中程の「定理6.94 の解説に戻ろう。、、、問題6.97」まで。ならびに、p164, 定理6.99 とその証明。
著者のページで対応済みとなったコメント
$\displaystyle 4\int_0^{\frac12} \sqrt{1-t^2}dt = 4 \int_0^{\frac\pi6} \cos^2\theta d\theta= 2 \int_0^{\frac\pi6} (1+\cos2\theta) d\theta$
$= \displaystyle \left[ 2\theta + \sin 2\theta\right]_0^{\frac\pi6}=\frac\pi3+\frac{\sqrt{3}}2.$
ゆえに $I=\displaystyle\int_0^1 J(x) dx = \left( \frac\pi3+\frac{\sqrt{3}}2 \right) \int_0^1 x^2 dx= \frac\pi9+\frac{\sqrt{3}}6$ となる。
とできる。
- * page 203, 例7.63 の $D_n$ の定義。$\displaystyle \lim_{n \to \infty} \cos(n^2)$ が収束しないことは証明できるが、一瞬考えこむ。(というか、2.1 節程度の知識しかないと、難しいように思う。)この例題ではその数列の発散を考察をすることは本質的ではないので、$D_n$ の定義の$x^2+y^2 \le n^2$ を$x^2+y^2 \le n \pi$ としたらどうだろうか?これならば、$\cos(n\pi) = (-1)^n$ となるので、$n\to\infty$ で収束しないことは、ただちに分かるので。
- * page 207, line -2. 「と」おくと。
- * page 239, 問題7.36 の解答。$D$ は原点 $(x,y)$ を含むことに注意すると、逆写像 $\Phi^{-1}$ が「$D'$ と $D$ の1対1対応を与える」と書かれているところは厳密には「$D'$ と『$D$ から原点を取り除いた部分』との1対1対応を与える」が正しいと思う。もちろん、$D$ から1点を取り除いても、積分値には影響はない。
- * page 243, 問題7.62(3) の$D'_2$ の定義式の $\frac\pi2 \le r \le \pi$ の $r$ は $\theta$.
- * page 244, 問題7.65 の解答の最後の行の分数の分母の指数は$2$ でなくて$3$.