特論12の参考資料
以下の資料を参考にして、講義の準備をしている。
- (受講に際して、購入の必要はない。)
- 中原幹夫「量子計算入門」物性研究83-6, p699-786. web にあり。例が適切。随所にある短いコメントも初学者(=私)にとって親切であり、とても良い。願わくば、目次があると良いと思ったので目次作りました。
- 縫田光司「量子計算、量子アルゴリズムと有限群の表現論」2009年度表現論シンポジウム報告集。12ページ。web にあり。数学者が数学者に向けて書いたものであり、他の本などでもやもやしてわかりづらく思う点が、ズバリ解消されている。この短い論説だけでは説明が足りないと思うが、他の分野向け(情報科学者向け、工学者向け、物理学者向け)の本と併用して読むと良い。
- 上坂吉則「量子コンピュータの基礎数理」コロナ社、2000年。数学的な箇所が数学者に読みやすいような印象を受ける。なぜだろう?
- 宮野健次郎、古澤明「量子コンピュータ入門(第2版)」日本評論社, 2016年。なお、初版は2008年。他の本よりも平易。その分、例えば Shor のアルゴリズムでは 15=5*3 の分解のみ(すなわち、素因子が全てフェルマー素数)の場合のみを紹介している。
- 西野哲朗「量子コンピュータ入門」東京電機大学出版局、1997年。例えば p116 の式が書かれていることなどはいい印象を持った。ただし mod 2 ではなくてもっと大きな数字にしたほうがよかったとは思うが。1 = -1 mod 2 なので、式(a)=式(d) になっちゃうので。
- Nielsen, Chuang 「量子コンピュータと量子通信II 量子コンピュータとアルゴリズム」オーム社、2005年。定本のようであり、確かにしっかりとした記述がなされている。
- 阿部英介、古田彩、山口文子 「量子コンピュータ授業」慶應大学、YouTubeに動画あり、web にスライドあり。スライドでこのスピードの講義は初学者にはきついんじゃないかなあと思うけど、わからないところは何度も見返せるという状況であればあり得ると思います。なお、個人的には数学よりも、第8回「黎明期の歴史」が面白かった。
補足:
- web 上の資料はリンクを貼ることもできるのだが、すぐにリンク切れになる。著者やタイトルなどで検索するとすぐにヒットするので手間はかかるが検索してほしい。
- この講義の力点(強調点)は、多くの既存資料とは必ずしも一致しないが、その中でも比較的近いものを上では挙げた。
一方で、読んではみたものの、この講義ではあまり使わない資料を以下にリストする。(これらの資料に問題があるのではなく、この講義の方向性や講義の時間的な制約との絡みで。)
- 日経サイエンス2018年4月号「特集 量子コンピューター 米国の開発最前線を行く」p32-45。実装の(最新の)現状については講義では扱わない。ただし、教養として知っておくこと、主要な素材や人物についてコンサイスにまとめられているので講義は扱わないものの、自学の価値は十分にある。
- Yu. I. Manin, Classical computing, quantum computing, and Shor's factoring algorithm, arXiv 9903008. 同年のブルバキセミナーのためのノート。文献を入れて27ページの分量。話題が多く、しかもフォーカスが「広い」。したがって、それぞれの話題への数学的な掘り下げの記述の分量は足りていない。ブルバキセミナーという時間的な制約もあっただろうし、ブルバキセミナーの聴衆であれば常識で補えるのであろうが、ここから入門をスタートするのは現実的でなかろう。
- 細谷暁夫「量子コンピュータの基礎 第2版」別冊数理科学SGCライブラリ69巻、サイエンス社、2009年。初版は1999年、SGCライブラリ第4巻。今日借りてきたのでこれから中身を読むが、「はじめに」からしてとびきり面白い。『私の考えでは、その論理構成に猫などはどうでもよく、抽象的で透明な数学的枠組みが必要であると考えて、、、』。ちゃんと読んだら講義で使います。
- ベルマン他「入門 量子コンピュータ」パーソナルメディア、2002年。なお、Shor のアルゴリズムは第6章(全部で2ページ)ならびに訳者あとがきのp182 に触れられている。訳者あとがきに描かれている(p187)「本書は29章に細かく分けられているので、それらの関連性について少し補足しておきたい。」がもう少し初学者に配慮のあるものであると良いように思う。この部分や序 piii を手掛かりにこの本の大まかな構成をまとめる(例えば全体を5つのパートに分ける)ことができれば、むしろ初学者卒業と言えるだろう。
- ウィリアムズ他「量子コンピューティング」シュプリンガージャパン、2000年。これもこれから読む。以下は瑣末なこと:p128, line -1「$q$ が小さな素因子を持たねばならない」は、「$q$ の素因子はどれも小さい」という意味。この周辺では、p121 の$n=pq$ という設定と、p129 の本文の連分数による近似での $p/q$ と、p129 の表1のStep 1 の $q$ と、3種類の異なる $q$ が用いられている。ここの $q$ は3つ目の $q$ の意味で使われているが、多くの本では、$N$ など、別のアルファベットが使われている。 著者まえがきに「本書は、量子コンピューティングに関する初めての本である。」と書かれている。また、CD-ROM が付録として付いている。
- マーミン「量子コンピュータ科学の基礎」丸善出版、2009年。これもこれから見る。
- 松枝宏明「量子系のエンタクグルメントと幾何学」森北出版、2016年。講義のレベルに比べて詳細に過ぎるため。
思ったこと
- Shor のアルゴリズムの中盤で、「第2成分に関して観測した後、第1成分に関して量子フーリエ変換して、第1成分を観測する」と書かれている文献が多いように思うが、第2成分と第1成分への演算は可換なので、「第1成分に関して量子フーリエ変換して、第1成分第2成分を観測する」としても結果は同じである。後者のように記述しているのは、細谷SGC。
- Deutsch-Jozsa のアルゴリズムの意味の理解には、石坂他3.1節 p61-62 が良い。執筆者は河内亮周。量子状態識別、という問題意識を導入し、直交性がその鍵であると明快である。
- $\mathbb{Z}_N$ 上の量子フーリエ変換を効率的に実装する方法は知られている。石坂他p78。そしてここの説明では、いわゆる「連分数」的なステップは記述が一切ない。p72, line 2 「Shor のアルゴリズムの中心的なアイディアは以下の周期発見問題を解く量子アルゴリズムに集約される。」とし、$N$ が既知の場合の $\mathbb{Z}_N$ の議論を展開している。
素因数分解 $N=pq$ の設定では、周期発見における $N$ は $(p-1)(q-1)$ なので未知であることを注意する必要がある。
- 一方、細谷7.2-7.4節では、連分数的な議論にも説明が多く割かれている。どちらを「主要部」とみなすかは、実装の進歩に関係する?無関係?
- 中山茂、第10章の扉の文章「因数分解アルゴリズムは位数発見アルゴリズムへ、またさらに、位数発見アルゴリズムは位相推定アルゴリズムへと還元される」「周期発見アルゴリズム$\to$位数発見アルゴリズム$\to$位相推定アルゴリズム」が基本となる。
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