高瀬正仁「古典的難問に学ぶ微分積分」共立出版
- 講義の準備をした上で気がついた点
- p37, 問題1.2の解答。
広義積分を形式的に避けることで高校の極限の範囲で説明する方法。
line 9 まで計算を進めたところからの別計算法。
$t=1/s$ と変数変換すると、$\displaystyle \int_1^{\frac1y} \left( \frac1t-\frac1{\sqrt[3]{1+t^3}}\right)dt
=\int_y^1 \left(1-\frac{1}{\sqrt[3]{1+s^3}} \right) \frac{ds}{s}$となる.
line -5 と同じ変形によって、
$=\displaystyle\int_y^1 \frac{s^2}{\sqrt[3]{1+s^3}\left(\sqrt[3]{1+s^3}^2+\sqrt[3]{1+s^3}+1\right)} ds$
となる。最後の式の被積分関数は $0 \le s \le 1$ で連続なので、可積分であり、$y\to+0$ の時に極限値
$\displaystyle\int_0^1 \frac{s^2}{\sqrt[3]{1+s^3}\left(\sqrt[3]{1+s^3}^2+\sqrt[3]{1+s^3}+1\right)} ds$ に収束する。
- p38, 問題1.3の解答。
一般の関数に関して同じ計算をすることで、何をしているかがわかりやすくなる説明。
$g(x)=\sin x$ と置くと、
$\displaystyle f(x) = \frac{1}{g(x)-g(\alpha)} - \frac{1}{(x-\alpha) g'(\alpha)}$である。右辺を通分して変形すると、
$\displaystyle f(x)= - \frac{g(x)-g(\alpha)-g'(\alpha) (x-\alpha)}{(x-\alpha)^2} \cdot \frac{x-\alpha}{g(x)-g(\alpha)} \cdot \frac{1}{g'(\alpha)}$ となる。
右辺の第1項、第2項の$x\to\alpha$ における極限値はそれぞれ、
$\frac12 g^{\prime\prime}(\alpha)$, $\displaystyle\frac 1{g'(\alpha)}$ であり、これより、
$\displaystyle \lim_{x\to\alpha} f(x) = -\frac{g^{\prime\prime}(\alpha)}{2g'(\alpha)^2}$ となる。
- p47, line 6.
表記方法の改善の提案。
第2式や第3式の分子は括弧をつけて、
$(\sin x)(\pi-2x)$, $(\sin x)(\frac\pi2-x)$ のように書きたい。
$\sin$ の引数がどこまでなのか一見すると見づらいため。
- p52, 問題1.9.
陰関数のパラメータ表示によって極限を直接計算する方法。
まず、与えられた曲線は有理パラメータ表示を与えることができる。実際、$t=x/y$ という変数を導入して、$x$ を消去すると、$\displaystyle y= \frac{t^2-1}{t^2}$, したがって、$\displaystyle x= \frac{t^2-1}{t}$ と表すことができる。
次にこれらの式を、$f(x,y)$に代入すると、$f(x,y) = \displaystyle \frac{t^2(t+5)}{1+t-6t^2}$ と表すことができる。この式を $g(t)$ とおく。
さて、上のパラメータ表示で $(x,y)=(0,0)$ となるのは、$t=\pm1$ のときである。
$t=1$, $t=-1$ のとき、それぞれ、$g(1) = -\frac32$, $g(-1)=-\frac23$ である。これは、本で与えられている解答の数値と一致する。
- p57.
積で表されている関数の微分法によって、より単純な関数の挙動に帰着できることに着目した解法。
$f(x)$ の $x=0$ での微分可能性ならびに微分係数の計算。
$g(x) = \displaystyle \frac{\sin \pi x}{x}$, $h(x) = \frac{1}{1-x}$ とおくと、
$f(x)=g(x)h(x)$ である。
$g(x)$ は $x=0$ で微分可能であり、微分係数は、本と同じ計算(ただし、$1-x$ の冪は出てこないので
式の見かけがきれいになる、下部の*を参照)をすることで、
$g'(0)=0$ と求められる。積の微分法より、
$f'(0) = g'(0) h(0) + g(0) h'(0) = 0 \times 1 + \pi \times 1 = \pi$ と求まる。
同じく、$f(x)$ の $x=\pi$ での微分可能性ならびに微分係数の計算。
$g(x) = \displaystyle \frac{\sin \pi x}{1-x}$, $h(x) = \frac{1}{x}$ とおくと、
$f(x)=g(x)h(x)$ である。
$g(x)$ は $x=\pi$ で微分可能であり、微分係数は、
本と同じ計算(ただし、$x$ の冪は出てこないので式の見かけがきれいになる)をすることで、
$g'(\pi)=0$ と求められる。積の微分法より、
$f'(\pi) = g'(\pi) h(\pi) + g(\pi) h'(\pi) = 0 \times 1 + \pi \times (-1) = -\pi$ と求まる。
*:なお $g'(0)$ の計算は、本のやり方を完全に踏襲すると、
$\displaystyle g'(0) = \lim_{x\to0} \frac{g(x)-g(0)}{x}
= \lim_{x\to0} \frac{\frac{\sin \pi x}{x}- \pi}{x}
= \lim_{x\to0} \frac{\sin \pi x - \pi x}{x^2}
= \lim_{x\to0} \frac{-\frac16 \pi^3 x^3+\cdots}{x^2}
= \lim_{x\to0} -\frac16 \pi^3 x + \cdots
= 0$ のように実行することができる。
- p58, line 1.
前のページの訂正の余波。
分母の $x^2$ は $x$.
- p69, 問題1.14.
単純な不等式の評価のみによる別解。
変数変換 $t=x+\log u$ によって、積分変数を $t$ から $u$ に置換積分すると、
$f(x) = \displaystyle \int_{e^{-x}}^1 \sqrt{x+\log u} du$ となる。したがって、$0<x<y$ のとき、
$f(x) = \displaystyle
\int_{e^{-x}}^1 \sqrt{x+\log u} du <
\int_{e^{-x}}^1 \sqrt{y+\log u} du <
\int_{e^{-y}}^1 \sqrt{y+\log u} du =f(y)$
となるので、$f$ は増加関数である。
- p110,
$\alpha, \beta$ のような、明示的に書けない値が途中では出てくるが、最終的には出てこない。これのからくりを理解する解法、すなわち、途中で $\alpha,\beta$ を使うことを避ける方法がある。
$J_1 = \displaystyle\int_0^1 \frac{1-x^2}{x^4+1}dx$,
$J_2 = \displaystyle\int_0^1 \frac{1+x^2}{x^4+1}dx$
と定義すると、
$\displaystyle\int_0^1\frac{dx}{x^4+1}
= \frac12 J_1 + \frac12 J_2$
である。
$J_2$ で $x=1/t$ と置換積分すると、
$J_2 = \displaystyle\int_1^\infty \frac{1+t^2}{t^4+1} dt$
となる。したがって、
$J_2 = \displaystyle\frac12 \int_0^\infty \frac{1+x^2}{x^4+1} dx$ である。
さらにこの被積分関数は偶関数なので、
$J_2 = \displaystyle\frac14 \int_{-\infty}^\infty \frac{1+x^2}{x^4+1}dx$ である。
さらに、奇関数の積分 $\displaystyle \int_{-\infty}^\infty \frac{x}{x^4+1} dx=0$ なので、これの $\sqrt{2}/4$ 倍を$J_2$ に加えても値は変わらない。
$J_2 = \displaystyle \frac14 \int_{-\infty}^\infty \frac{1+\sqrt{2}x+x^2}{x^4+1} dx
= \frac14 \int_{-\infty}^\infty \frac{dx}{1-\sqrt{2}x+x^2}$.
この積分は教科書(p.., line ...)にあるように平方完成して、$\tan$ を用いて計算できる。
上のようにしておくと、置換した後の区間の両端が $\pm \frac\pi2$ と明示的に書けることがポイントである。
(したがって、$\alpha,\beta$などが登場しない。)
ついでに $J_1$ の処理を本とは少し異なる形で導いておく。$t=x+\frac1x$ とすると、$dt = (1-\frac1{x^2}) dx$ である。したがって、置換積分により、$J_1=\displaystyle \int_2^\infty \frac{dt}{t^2-2}$ となる。
ここからは部分分数展開によって、$J_1 = \displaystyle \frac1{2\sqrt{2}} \int_2^\infty \left( \frac{1}{t-\sqrt{2}} - \frac{1}{t+\sqrt{2}} \right) dt = \frac{1}{2\sqrt{2}} \left[ \log\frac{t-\sqrt{2}}{t+\sqrt{2}} \right]_{2}^\infty
= - \frac1{2\sqrt{2}} \log \frac{2-\sqrt{2}}{2+\sqrt{2}} = ....$
- p121,
やはり不定積分できる関数である。なぜ、2つの逆三角関数がまとまるのかの理由を解明してみよう。
$x,a,r$ を3辺とする3角形を考える。
辺 $r$, $x$ の対角をそれぞれ、$\theta$, $\phi$ とする。
このとき、第2余弦定理より、$a^2+x^2-r^2=2ax \cos \theta= -2ax \cos(\pi-\theta)$ なので、
$\displaystyle\cos^{-1} \frac{a^2+x^2-r^2}{2ax} = \pi-\theta$ である。
$x=r$ のとき、三角形は、$a$ を底辺とする2等辺3角形であり、
$\theta=\phi = \displaystyle \cos^{-1} \frac{a}{2r}$ である。
$x=r-a+0$の極限で、3角形は1直線上に退化して、$\theta=\pi$, $\phi=0$ に近づく。
$2x (\pi-\theta) dx
= (\pi-\theta) d(x^2)
= d((\pi-\theta) x^2) + x^2 d\theta$.
正弦定理より、
$r \sin(\theta+\phi) = a \sin \theta$.
これを $\phi$ で微分すると、
$(r \cos(\theta+\phi) - a \cos\theta) \displaystyle\frac{d\theta}{d\phi} + r \cos(\theta+\phi) = 0$.
第1余弦定理より、$a \cos\theta-r \cos(\theta+\phi)=x$ なので、
$\displaystyle x \frac{d\theta}{d\phi} = r \cos(\theta+\phi)$.
ここで再び、第1余弦定理より、
$a \cos\phi-x \cos(\theta+\phi)=r$.
したがって、
$\displaystyle x^2 \frac{d\theta}{d\phi} = r x\cos(\theta+\phi)=r(r-a \cos\phi)$
となる.
以上より、
$2x (\pi-\theta) dx = d((\pi-\theta) x^2) + r(r-a \cos\phi)d\phi
= d((\pi-\theta) x^2+r^2\phi- ra \sin \phi)$ となる。
積分区間の両端の値を見ると、下端の値は$0$.
上端の値は、
$\displaystyle (\pi-\cos^{-1}(\frac{a}{2r})) r^2 + r^2 \cos^{-1}(\frac{a}{2r}) - r a \sin(\cos^{-1}(\frac{a}{2r}))
= \displaystyle 2r^2 (\frac\pi2-\cos^{-1}(\frac{a}{2r})) - r a \sqrt{1-(a/2r)^2}
= 2 r^2 \sin^{-1}(\frac{a}{2r}) -\frac a2 \sqrt{4r^2-a^2}$ となる。
この解法を見ると、$x=r-a$ という端点の特殊性が、2つの逆三角関数の値がまとめられる要因になっていることがわかる。
- p127.
不定積分が求められる関数の定積分でも、区間が特別なときは値が簡単になることの別証。
対称性 $x\mapsto 1/x$ を活用する。
広義積分$\displaystyle \int_0^\infty \frac{dy}{y^3+1}$.
まず、$\displaystyle \frac{1}{y^3+1} = \frac12 \frac{1-y}{y^3+1} + \frac12 \frac{1+y}{y^3+1}$ なので、
$\displaystyle \int_0^\infty \frac{dy}{y^3+1} =
\frac12 \int_0^\infty \frac{1-y}{y^3+1} dy + \frac12 \int_0^\infty \frac{dy}{y^2-y+1}$ となる。
右辺第2項の積分は、本の p128 の方法で計算する。ここでは右辺第1項に現れる積分 $I= \displaystyle \int_0^\infty \frac{1-y}{y^3+1} dy$ を扱う。$y=1/z$ と変数変換(置換積分)することで、$I=-I$ がわかる。従って、$I=0$ である。
- p128, 問題2.8.
もしも「問題文に与えられている誘導とは趣旨が異なって、有限の $a$ の値を求めず、
極限の値だけに興味がある」とすれば、$a\to\infty$ のときだけは次のように計算できる。
$f(A,a)$ の定義式で、$x=at$ と置換積分すると、
$a^3 f(A,a) = \displaystyle\int_0^{A/a} \displaystyle\frac{dt}{t^4+4}$ がわかる。従って、
$\displaystyle\lim_{a\to\infty}a^3 f(A,a) = \int_0^0 \frac{dt}{t^4+4}=0$ となる。
なお、
$\displaystyle\lim_{a\to+0}a^3 f(A,a) = \int_0^\infty \frac{dt}{t^4+4}$ となり、この値を計算するのは、教科書通り。(あるいは、p110 の方法など)
- p147, line -5
の冒頭も $\log$ が抜けている。(右辺の計算の方には正しく $\log$ がついている。)
- p148, 問題2.14.
部分分数展開の代わりに階差数列から求める方法。
$J_n = \displaystyle \int_0^\infty \frac{\log x}{(1+x)^n} dx$ とおく。
$x=e^t$ と置換積分すると、
$J_2 = \displaystyle \int_{-\infty}^\infty \frac{t e^t}{(1+e^t)^2} dt$ となる。
この被積分関数は奇関数なので、$J_2=0$ である。
次に、
$-n J_{n+1} +(n-1) J_n
= \displaystyle \int_0^\infty \left(\frac{-n}{(1+x)^{n+1}} - \frac{-(n-1)}{(1+x)^n} \right) \log x dx$
を計算する。被積分関数は、
$\frac{d}{dx} \left( \frac{1}{(1+x)^n} - \frac{1}{(1+x)^{n-1}} \right) \log x
= \frac{d}{dx} \frac{-x}{(1+x)^n} \times \log x$ と書けている。そこで、部分積分すると、
定積分の部分は
$\displaystyle \left[ \frac{-x \log x}{(1+x)^n} \right]_0^\infty$ となるが、
端点の値が、
$\displaystyle \lim_{x \to +0} \frac{-x \log x}{(1+x)^n} = 0$,
$\displaystyle \lim_{x \to +\infty} \frac{-x \log x}{(1+x)^n} = 0$
とわかる(教科書にあるように $\displaystyle \lim_{x \to+0} x \log x =0$,
$\displaystyle \lim_{x \to +\infty} \frac{\log x}{x} =0$ を用いる。)ので、定積分の部分の値は$0$ である。従って、
$-n J_{n+1} +(n-1) J_n
= \displaystyle - \int_0^\infty \frac{-x}{(1+x)^n} \frac{dx}{x}
= \displaystyle \int_0^\infty \frac{dx}{(1+x)^n}
= \frac{1}{n-1}$ と計算できた。
階差数列がわかったので、一般項はこれを足し合わせることでわかり、
$-(n-1) J_n = \displaystyle \left( 1+\frac12+\cdots + \frac{1}{n-2} \right) - J_2 = 1+\frac12+\cdots + \frac{1}{n-2}$
となる。